糖尿病に克つ 新薬最前線

糖尿病に克つ新薬最前線 から はじめに をお届けします。

はじめに
すばらしい新薬が糖尿病列島・日本を救う
 日本はいま、“糖尿病列島”といっても過言でない状況にあります。厚生労働省の調査(2007年)によると、20歳以上で糖尿病が強く疑われる人は約890万人、糖尿病の可能性が否定できない人(予備群)は約1320万人、合計で約2210万人と推定されています。つまり、じつに国民の成人4〜5人に1人が、なんらかの糖尿病に関係した異常をもつ人だということになります。
 これに対して、2009年10月から「糖尿病を否定できない人」(俗にいう糖尿病予備群)に効果のあるボグリボース(商品名=ベイスン)の内服保険適応が認可され、2210万人が糖尿病の新薬、最新治療を受けられる対象者となりました。
 そしてさらに、糖尿病で汚染されているような日本で、根本的に糖尿病を治すかもしれないと期待される新薬が登場してきました。それも一種類だけではなく、いくつもの新薬が続々と登場する機運にあります。研究者、製薬企業、臨床家など、さまざまな医療関係者が一丸となって、「糖尿病に克つ」という目的で力をあわせた成果ということができます。
 最新医療の先陣をきって登場したのが「GLP−1関連製剤」です。これは、すでに世界で15社以上の製薬企業が参入を表明してしのぎをけずっている薬で、100年に1度の大発見ともいわれるすばらしい新薬です。これを、臨床家が投薬できるようになりました。その意味では、2010年は糖尿病新薬元年ということができます。
 本書では、まずGLP−1を含む新薬の最新情報について紹介します。とくに、2010年1月に承認されたGLP−1誘導体(GLP−1注射薬、GLP−1受容体作動薬ともいう。商品名=ビクトーザ、一般名=リラグルチド)について取り上げます。書籍による詳細な紹介は日本では初となるでしょう。
 GLP−1誘導体は、糖尿病の指標であるHbA1cを1・5%以上、下げることができます。それは、低血糖を起こさない、膵臓を保護する(膵臓のβ細胞を増生させうる)、体重を減らすことができる、副作用が少ない、という点において、これまでに類をみない特効薬です。唯一の欠点といえば注射であることです。しかし、それも32G(ゲージ)という、とても細い針を使っているので、日常生活での苦痛はきわめて少ないといえます。
これまでの常識をくつがえして、時代は大きく変わろうとしています。GLP−1関連製剤の登場によって、まさに「パラダイムシフト」(常識が覆ること)が日常臨床の場で起きているのです。
 夢の新薬、特効薬が出てきたら、これまでの血糖降下薬はどのように服用すればいいのでしょう。この問題は、まだ糖尿病専門医師たちの間でも議論が分かれています。
 また、GLP−1誘導体が注射であるため、それを内服にできないか、と考えられて発売されたのが「DPP4阻害剤」です。この薬剤は、体内に存在する自分が分泌したGLP−1(インクレチンのひとつ)という物質の分解を抑制するので、副作用はさらに少なく、安全かつ有効な内服特効薬です。本書では、2009年12月に発売されたDPP4阻害剤「シタグリプチン」に加え、4月以降に発売される「ビルダグリプチン」も紹介しています。複数のDPP4阻害剤を紹介できたという意味でも、本書は日本初の記念すべきものになるでしょう。
 そして、糖尿病治療の進歩はこれだけではありません。第11章で紹介するように、「SGLT2阻害剤」や「膵リパーゼ阻害剤」などが新薬として登場すると、糖尿病治療はさらに進歩することでしょう。「メトフォルミン」の適応拡大(2250mgまで内服可能)、0・5mg「アマリール」の承認なども、ごくごく最近の進歩です。これまでの糖尿病治療の開発を考えると、驚くべき速さですばらしい薬が次々とラインアップされています。

 このような時代になると、「糖尿病は不治の病である」という常識がくつがえるかもしれないという議論が生まれてきます。近い将来、「糖尿病は治ったと同じ状態を維持できる」といえる時代がくるのではないかと考えられます。パラダイムシフトという言葉は、その可能性をも示唆しています。
 実際の臨床の場、たとえば私のHDCアトラスクリニックの糖尿病外来では、すでにHbA1cが通常値に近い6・5%以下は普通、それどころか、5・8%以下になるだろうと推定される人がどんどん増えています。多くの人たちは、初診時や高血糖悪化時にはHbA1cが8%程度か、それ以上の方たちばかりです。さらには、「厚労省が決めた糖尿病予備軍の基準がHbA1c5・6%以上であるならば、治ったも同然といえる5・5%以下の状態にしたい」と、きわめて高い目標を目指す患者さんも増えてきました。
 そして、糖尿病外来での患者さんとの会話の中からは、もはや、朝食抜きダイエット、アンチエイジング、“血糖が気になる方へ”とうたうサプリメント、さらにはイモ、水、ゴマなどの効能をうたう民間療法や非保険医療の用語は消えました。なぜならば、保険医療で、新薬にもかかわらず適切な価格でだれもがGLP−1関連製剤を入手できるからです。あまねく一般の医療機関で、病院で、クリニックで、これらの新薬治療の恩恵を受けることができるのです。糖尿病患者さんたちは、これからは民間療法や非保険医療に向けていた医療費を新薬(保険医療)に使うべきです。
 本書は、そうした、まじめに糖尿病の治療を受けようとされる患者さんと、まじめに保険医療を行う内科医師たちを応援するために執筆しました。本書をきっかけに、患者さんと医師との会話をつうじて互いに理解しあいながら、安全にすみやかに新薬の恩恵が受けられるようにと願っています。
 そして、「糖尿病は不治の病ではないかもしれない」「糖尿病治療の新時代を迎えた」「ついにパラダイムシフトが起きた」と皆さんに理解していただき、糖尿病治療の未来は明るいと希望をもっていただければ、筆者としては大変に光栄です。

 2010年3月                           鈴木吉彦

ヘモグロビンA1c(HbA1c)とは
 HbA1cは、ヘモグロビン・エーワン・シーと呼びます。過去1カ月〜2カ月前の高血糖を反映する指標です。高血糖が継続した状態にあると、糖が結びついたヘモグロビンが増える現象を利用した検査値です。日本では、HbA1cが6・1%を超えていることが「糖尿病らしい」とする目安になっています。5・6%から6・0%までの間は「糖尿病の予備軍、境界型糖尿病であって、動脈硬化は進むけれど、糖尿病の三大合併症は進まない」ということになります。安心していいのは論理的には、HbA1cが5・5%以下で、厚生労働省の診断基準でも、5・5%以下が健常者となります。

朝日新聞出版、書籍、糖尿病に克つ 新薬最前線 2010年3月 3ページから8ページまで コピーライト、©鈴木吉彦

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この記事を書いた人

鈴木吉彦医学博士。糖尿病分野で名医ランキング2016〜2023まで、常に掲載。Best Doctor  慶応大学医学部卒。
元、日本医科大学客員教授。現、HDCアトラスクリニック院長。
毎月通院糖尿病患者数1000名以上の糖尿病外来と併行しGLP1ダイエット外来の運用責任者
英文論文は沢山:IP:400以上。70冊以上の書籍の出版経験をもつ。累計100万部以上の書籍を出版。主たるサイト:
ホームページはここをクリック
https://www.glp1.com/
GLP1製剤「サクセンダ」について解説。未承認のGLP1製剤については、その危険性についても解説。現在、世界で最も注目されている糖尿病+肥満(Diabesity)やメタボ+肥満(Metabesity) を専門とする内科医師。
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