糖尿病に克つ 新薬最前線 第2章 きめ細かい糖尿病医療が合併症を防ぐ

糖尿病に克つ 新薬最前線より第2章をお届けします。

第2章 きめ細かい糖尿病医療が合併症を防ぐ


合併症を進ませず長寿を保つコツ
通院を原則月1回にしている理由
 私が糖尿病専門外来を運営する立場に着いてから、糖尿病合併症をもつ患者さんは激減しました。そのコツはシンプルです。患者さんの合併症をていねいに検査し、診察しているだけです。
 たとえば、通院は月1回を原則とし、待ち時間は極力短くしています。患者さんたちは、原則年12回、私に会いに来てくださいますから、関係は緊密です。そのため、少しでも異常があればすぐに検査および治療に入ります。
 つまり、私と患者さんとの接点が多く、緊密であればあるほど、糖尿病の合併症が起こったとしても早期に発見でき、早期治療が可能になるのです。実際、私がクリニック形式をとってからは、糖尿病網膜症の失明者はいまだにゼロです。
がんの患者さんの発見も容易になります
 糖尿病専門医の最大の弱点は、長年診察している患者さんが高齢になってがんが起きても、発病を見逃しやすいことです。がんはブドウ糖を消費しますから、体重が減り、血糖コントロールがよくなることがあります。そのとき糖尿病専門医は、患者さんが食事療法、運動療法で努力した結果だと考え、がんの存在に気づかないことがあるのです。ときには、「よくがんばりましたね。このまま継続してください」といって、通院間隔を延ばすこともあるくらいです。
 そうした糖尿病専門医が抱えるリスクを考え、私のクリニックでは月1回の外来のほかに、人間ドックの受診をすすめています。緊密な医師との連携と、年1回の人間ドックをルーチンにすることで、病院ではみつからなかったと思われるがんを、多くの糖尿病患者さんにみつけることができました。そのような患者さんたちには非常に感謝されています。
 大腸がんは多いのですか?
 大腸がんは、糖尿病患者さんに高頻度に合併します。とくに、貧血が起きて急激にHbA1cが下がったときには、大腸がんはまず考えるべき病名です。出血性の貧血が起こると赤血球の寿命が短くなるため、HbA1cが下がるのです(25ページ参照)。こうして大腸がんがみつかるケースが多くあります。
 人間ドックをすすめてみつかるがんは?
 糖尿病外来に通院しているから大丈夫と考えて、まったく人間ドックを受けない患者さんは少なくないものです。そうした患者さんには、一度でいいから人間ドックは受けてくださいとお願いしています。私は、そうして乳がん、胃がん、肺がん、大腸がん、前立腺がん、腎臓がんなど、たくさんの患者さんのがんをみつけました。
糖尿病の合併症とは
 血液は全身にくまなく流れています。そのため、あちこちの臓器に高血糖の影響は及びます。これを、余病といったり合併症と呼んだりします。合併症の代表的なものとして、神経障害、網膜症、腎症の3つが知られています。そのほか、心筋梗塞、脳梗塞、感染症なども糖尿病では起こりやすいものです。しかし、それらと比べ、先の3つの合併症(神経障害、網膜症、腎症)は、糖尿病の患者さんにとくに起こりやすいという性格をもつもので、「糖尿病性の3大合併症」と呼ばれています。
 なお、疲労感は糖尿病の症状の中でもっとも一般的な症状ですが、糖尿病が原因でなくても起こることがありますから、かならずしも「糖尿病性」とはいえません。
合併症その1「糖尿病性神経障害」
 糖尿病になると神経が冒されます。しかしながら、神経障害だけは3大合併症の中で、やや特殊な傾向をもちます。糖尿病になると同時か、それ以前から障害を有する場合もあるとされています。つまり、高血糖の結果として起こる場合だけではなく、それ以前から、糖尿病が起こるのと同じ原因をもとに起きている可能性があります。
 それは、遺伝的背景があるのかもしれません。私は、糖尿病性神経障害の原因はミトコンドリア異常や活性酸素の発生をもとにした酸化ストレスではないかと考えています。しかし、血行障害などで起こる障害もあるため、これがすべての患者さんに正しいとは断言できません。
 神経障害で起こる症状には、次のようなものがあります。

 ・足先がしびれる、麻痺した感じがある、痛い
 ・足が冷たい、夏でも靴下が必要、足がほてる
 ・手先がしびれる、つめたい
 ・ED(勃起不全)になる、精力が減退する
 ・生理が狂ってくる、閉経が早い
 ・便秘になる、下痢を起こす、便秘と下痢が交代性に起こる
 ・たちくらみがする、体がゆれて重心が保てない
 ・額や顔に汗をかきやすい、足が乾燥してヒビが入る
下肢のしびれはどういうときに起きるか
 糖尿病では、足や手のしびれと表現される感覚異常の頻度が多いとされます。一般に、しびれは患者によっていろいろな形で表現されます。たとえば、軽く触れられている違和感のようなものから、チクチク刺されている感じ、厚い皮が足裏に貼られている感じ、重く締めつけられている窮屈な感じ、などです。どのような人にどのような症状が起こりやすいかについては、よくわかっていません。
 しかし重症化すると、火鉢でも当てられている感じ、日焼けをした後の感じ、電気が駆け抜ける気がする、指がもげそうに痛い、平地でも砂利の上を歩いているようだ、といった激しい訴えに変わってきます。
 また逆に、感覚がなくなり、しびれて何をされても感じないという場合もあります。こうなると、一見よくなったと錯覚するので、より危険です。
 このような症状は、潜在的でゆっくり起きます。とくに、手よりも両足に左右対称性に起きます。しかし、中には高血糖時だけではなく、急激に血糖がコントロールされたときに突然起きることもあります。
 感覚を調べるため、私の場合、糖尿病患者さん全員に糖尿病性神経障害の定量的評価を行います。方法は、神経伝導速度検査です。下肢と上肢のふたつの末梢神経障害機能を評価し、最低年1回は結果を患者さんに説明します。それによって、患者さんが糖尿病性神経障害の進行度を客観的に認識し、治療の目的意識を高め、それが血糖コントロールに努める原動力に変わるわけです。
便秘はなぜ起きるか
 神経障害が進むと、便秘や下痢の頻度も増えます。神経障害で便秘が起きるのは、直腸に便が停留していることが感じにくくなるためとする説があります。健康者でも、排便を我慢していると習慣になり、便意が消えてしまう現象(習慣性便秘)が起きますが、それに似ています。

下痢について
 糖尿病性の下痢には、腹痛を伴わないことと、下痢が続いていても体が比較的消耗しない点が特徴です。ただし、これも程度の問題であり、ひどい下痢では脱水状態となり、低血糖を誘発するなど、困った事態を引き起こします。糖尿病で下痢がひどい場合、飲酒者かどうかをまずチェックします。慢性膵炎や膵臓がんに、下痢はよくみられます。糖尿病性神経障害で起こる場合には、便秘と下痢が交代して起こる交代性便通異常と呼ばれる特殊な現象もみられます。
胃運動障害
 一般に、神経障害が軽症の場合には胃運動は亢進し、食べたものが胃から小腸へ排出される速度が速まります。逆に、重症になると胃運動は低下し、胃から小腸への排出速度は低下して、食物の通過を妨げます。
 また、胃の運動がよくないと、食べたものの吸収速度が一定しなくなります。このため予測に反した血糖上昇が起こり、コントロールを乱す原因になります。食直後に低血糖になったり、逆に、食後数時間たって突然、血糖値が上がることもあります。
 ただし、糖尿病の早期に胃の排出速度が高まることは、自律神経障害によるものとこれまでは考えられていましたが、113ページ以降で解説するGLP−1濃度の低下が糖尿病で起こるとすると、その結果として胃の排出遅延が解除され、胃の排出速度が高まっていることも考えられます。
 なお、最近、糖尿病性神経障害の重症な人ほど、血糖コントロールに注意しなくてはいけないという報告が出されるようになりました。それは、インスリン治療やSU剤(スルホニル尿素剤=膵臓のβ細胞に働いてインスリンの分泌を促進させる)治療などを行い、低血糖が起こりやすい状態になる人においては、神経障害をもっていると「胃排出速度に再現性がなくなってしまう」ため、不慮の低血糖事故が起こりやすくなることを反映している事象だと私は考えています。
「胃排出速度に再現性がなくなる」とは、あるときには食後に高血糖になっても、別の日には高血糖にならないので、薬と血糖曲線とのバランスが崩れることを意味しています。インスリンが強く効いている時間に、食後でも胃排出速度が遅延して高血糖にならない場合には、非常に強い低血糖を起こしてしまい、それが低血糖昏睡や死亡といった事故につながる可能性があるというわけです。
ED(勃起不全)
 EDについては、3種類の薬剤(商品名=バイアグラ、レビトラ、シアリス)でほとんどが解決します。禁忌事項があるので、それだけは医師から注意を受けてください。
 
 一般的には、問診だけで十分です。ただし、神経伝導速度の値を参考にし、本当に神経障害が原因であるのか、心理的因子であるのかを鑑別することができます。
 処方を受けるときのポイントは、まず食事の影響があるかどうかです。バイアグラは、空腹でないと効果が減退します。レビトラは、炭水化物の摂取は大丈夫ですが、脂質の多い食事はさける必要があります。シアリスは、食事に関係なく効果があります。服薬の利便性は、シアリス、レビトラ、バイアグラの順になります。
 速効性の面ではレビトラが速く、持続時間も長く利便性に優れます。持続性の面ではシアリスが優れており、「昔の若いときの男性としてのプライドを思い出せる」という状況を、2〜3日間作ることができます。動悸や顔面紅潮などの副作用も少なく、服薬時間を気にしなくてもよいのもシアリスの特徴です。
 バイアグラは歴史があるので、安全性の面でも効果の面でも優れています。しかし、知名度がありすぎるゆえの欠点もあります。その形状が特徴的なため、バイアグラを携帯していることが知られやすいので、それが気になる患者さんにはあえてすすめません。
 いずれにしても、医師からこれらの薬剤の処方を受ける際には、上記のような各薬剤の特徴とメリット、デメリットを確実に教えてもらえる医師から処方を受けるようにしてください。
たちくらみ(起立性低血圧)
 健康者では、横になったときと立ったときの血圧差があまりないように調節されています。この機構を保つのが自律神経です。それが糖尿病で障害されると、立った瞬間に血圧が下がって一時的に脳への血流が少なくなり、いわゆるたちくらみが起こります。脱水や低血糖のときなどに、よくみられます。重症になると起立直後はもとより、数歩歩きはじめてから目の前が真っ暗になることもあります。それをブラッキング(Blacking)と呼びます。
糖尿病と心臓病
 狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患は、糖尿病だけによく起こるものではないのですが、糖尿病の危険因子として重要です。食後高血糖、高インスリン血症、高血圧、高脂血症、喫煙などとの関係が示唆されます。糖尿病の合併症としてももちろんですが、最近では、いわゆる糖尿病予備軍である軽症糖尿病や境界型糖尿病において、心筋梗塞の増加が危惧されています。心臓病に関してだけいえば、糖尿病が軽症だから安全というわけではないということです。
狭心症の痛みが消える(無痛性心筋梗塞)
 高血糖が長く続いて自律神経障害が進行すると、狭心症による胸痛を感じにくくなります。これは、神経を介して自覚されるべき心臓への警告信号が遮断されたためです。放置すると心筋梗塞に至り、胸痛がない心筋梗塞という意味で「無痛性心筋梗塞」と呼ばれます。
 胸痛がないということで放置している時間が長くなるほど、重症化しやすくなります。発見されたときには重症化していることが多く、心不全にもなりやすいので要注意です。
 
 私の場合、初診時にかならず心電図をとり、運動療法の可否を決定します。心筋梗塞の既往がないかどうかを検査します。
 
 通院中であれば、定期的に心電図をとりましょう。胸部に少しでも違和感や痛みがあれば、ただちに主治医に相談しましょう。私の場合には、クリニックの外来枠の中に「循環器外来」もあるので、心筋梗塞だけでなく心房細動などの不整脈も頻繁にみつけることができます。
発汗異常、痒感
 糖尿病が悪化すると、下肢の発汗機能が低下することが知られています。このため、皮膚は乾燥しやすく、全身に痒みが起こります。外陰部に起きた痒みの場合には、皮膚カンジタ症との鑑別も必要です。

 
 高血糖の改善が第一。悪化する場合には、保湿性ローションを処方します。さらに悪化した場合には、皮膚科専門医に相談します。
合併症その2「糖尿病性網膜症」
 日本では、成人発症の失明原因の多くは糖尿病性網膜症によるものです。若いころは普通で、成人になってから失明し、白い杖をもっている人がいたら、その2人に1人は糖尿病があると推測されます。
 典型的な症例は、テレビドラマか映画『盲導犬クイールの一生』に出てきた主人公でしょう。テレビドラマは、NHK総合テレビの月曜ドラマシリーズで2003年6月に放送され、映画は2004年3月に公開されています。盲導犬クイールの話自体は感動的ですばらしい内容ですが、患者さんご自身にとっては悲劇の物語です。失明したことによって失った生活の質(QOL=Quality of Life)は、きわめて大きな損害だからです。
眼底出血は糖尿病になってどのくらいの期間で起こるの?
 糖尿病になったからといって、ただちに網膜症が起きるわけではありません。一般的には5年から10年後くらいに発症します。血糖コントロール不良の場合は早く現れ、コントロールがよい場合では、何年経過をみていても現れません。糖尿病を発症して何十年とたってもコントロールがよければ網膜症は起こらないだろうと考えられ、私として「安心圏」と患者さんにいえるのは、HbA1c6・0%以下と考えながら外来を行っています。
網膜症で起こる症状は?
 眼底出血がかなりひどくても、遠くまではっきりみえ、視力にはまったく問題ないという患者さんも多くいます。このため、医師から眼底出血があると診断されて初めて気がつくことが多いようです。また、視力が落ちていないからといって網膜症は心配ないとはいえません。健診だけで安心してはいけません。少なくとも眼底写真をとるか、眼科医師の診察を受けるようなシステムのある医療機関での定期的な経過観察が必要です。
 血糖コントロールの後に眼底出血を起こすこともあります。高血糖がかなりひどく、しかもそれが長く続いていた患者さんほど、その心配は大きいものです。
 
 初期のうちは眼底検査をし、所見がなければ治療の必要はありません。眼底出血をみつけたら、眼科医師への相談が必要です。初期のうちは単純性網膜症といわれる段階で、所見が出たり消えたりすることがあります。初期の微少出血があるといわれても、さほどがっかりする必要はありません。前増殖性網膜症と診断されたときには、眼科医師のもとでの診察と経過観察が必要です。
糖尿病の重度の合併症は頻度が減っている
 糖尿病網膜症にかぎらず、糖尿病における重度の合併症の頻度は減っています。その理由は、糖尿病の初期段階の薬物治療が進歩し、糖尿病専門医や熟練医、糖尿病療養指導士が増えて、治療が飛躍的に進歩したことにあります。事実、日本糖尿病学会が主導する糖尿病専門医制度が充実し、糖尿病熟練医師が独立して運営する糖尿病専門クリニック、糖尿病外来が増えています。その結果、昔と比べて糖尿病患者さんのHbA1cがかなり低下しました。地道な活動が、最近になってようやく実を結んできたのです。
糖尿病で起こる白内障とは?
 白内障とは、目のレンズが白く濁ってしまうことです。糖尿病性といえる白内障は、高血糖が長期に続いた場合にみられます。これに対し、成人発症の患者さんでは加齢による老人性が多く、明確に糖尿病性と診断できないことがしばしばあります。薬物療法としては内服剤や点眼剤がありますが、作用や効果はさまざまです。最近では白内障手術が進歩しているので、眼科医師と相談してください。
合併症その3「糖尿病性腎症」
 腎臓は、血液内の老廃物や水分を濾過する働きをしています。糖尿病を放置していると、次第に尿中の蛋白排出が増加していきます。初期にはアルブミンという物質が微量ですが尿中に増えることで、早期段階であることがわかります。
 腎症が進行すると、尿中に排出される蛋白の量は1日何グラムもの量になります。この時期をネフローゼ症候群と呼びます。こうなると、一般には1年から2年くらいのうちに腎機能低下が顕著となり、腎不全となります。
 ジュリア・ロバーツ主演の映画に、主人公が腎不全で亡くなる『マグノリアの花たち』がありました。原作は、アメリカ合衆国南部の小さな町を舞台に、固い絆で結ばれる女性たちの姿を描いた戯曲です。オフブロードウェイで上演されていたものが、1989年に映画化されました。その中で、ジュリア・ロバーツが演じる女性が糖尿病性の腎不全で若くして亡くなります。私はそれを映画館で観て、糖尿病患者さんにこの映画をすすめるべきかどうか悩んだことがあります。
 盲導犬クイールの物語と同様、糖尿病が怖い病気であることや、低血糖発作とはどういうものか(ジュリア・ロバーツが美容院で発作を起こすシーン)を患者さんたちに理解していただくためにはすすめたい映画ですが、糖尿病は怖い病気と思い悩む患者さんにすすめるのはためらわれます。
 
 尿中の微量アルブミンの定期的な測定を主治医と相談してください。蛋白尿が常在性(いつも外来で陽性になること)になったら、血圧を低下させたり、食事中の蛋白質摂取制限を行う必要があります。
糖尿病と高脂血症
 高脂血症と糖尿病が合併すると、虚血性心疾患の発生が高まることが知られています。このため、高脂血症治療の目標は、一般には悪玉のLDLコレステロールが140mg/dl未満とされていますが、糖尿病が合併する場合には120mg/dl未満もしくは、より厳しく100mg/dl以下にするべきだとされています。
 
 スタチン系薬剤は、LDLコレステロールを大きく低下させます。商品名で「メバロチン」「ローコール」「リピトール」「クレストール」「リバロ」などの薬剤が使用されます。どれもいい薬ですが、糖尿病治療のため長年服薬するので、安全で副作用が少ない薬を選択するのが望ましいと考えられます。主治医から、副作用についてしっかり説明を受けてください。
 もし、スタチン系薬剤で目標のLDLコレステロールが下がらない場合は、商品名でゼチーアという薬剤を併用します。LDLコレステロールを下げれば下げるほど、動脈硬化が進みにくい、あるいは抑制されることも、最近、報告されるようになりました。
糖尿病と脳血管障害
 糖尿病患者では、脳梗塞の頻度は約2倍程度という報告が多いようです。ただし、糖尿病より高血圧のほうが、より強い危険因子です。糖尿病と高血圧を併発していれば、脳梗塞の予防という意味で血圧の管理が必要です。また、糖尿病においては死因となる大きなサイズの脳梗塞は少なく、むしろ中小サイズの梗塞が多く、多発性脳梗塞が多いなどの特徴があります。また、稀な例ではありますが、低血糖状態が長く続いた後の後遺症として、脳神経症状が残ることがあります。
 
 脳梗塞があるかどうかをみるため、脳MRI検査を受けていただく必要があります。小梗塞があるようであれば、抗血小板剤(商品名=バイアスピリン、プレタール、プラビックスなど)の服薬をおすすめします。各種薬剤のメリットとデメリットは、主治医と相談してください。副作用がある薬の服薬継続は要注意です。私の場合は、プレタールを処方するときには頭痛が起こる場合が多いので、少量から開始するようにしています。また、高血圧については、各種降圧剤を服用してできるだけ血圧を下げる必要があります。
日本人にとっての危険因子
 私は、日本人に対する大規模臨床試験の結果、高血圧は第1の危険因子、酸化にかかわるアルデヒド脱水素酵素2(ALDH2)が第2の危険因子、次に糖尿病が第3の危険因子であることを『Neurology』というアメリカの医学雑誌に報告しています。糖尿病よりも強い危険因子は、なんとアルデヒド脱水素酵素の遺伝子変化だったのです。
糖尿病と高血圧
 糖尿病と高血圧は、非常に合併しやすい病態です。糖尿病や境界型糖尿病があると動脈硬化が進みます。動脈硬化が進行すると腎硬化症という病気が進み、高血圧が起こります。さらに全身の血管が硬化しますから、それにより高血圧が起こります。
 高血圧は、糖尿病性腎症の進行を加速させます。また、腎症が進展するにつれて高血圧を合併しやすくなり、腎症末期には約90%の患者が高血圧を合併するといわれます。

 
 高血圧は糖尿病よりも人口が多い病気で、さまざまな治療薬があります。主治医によく相談し、ベストの薬を選択してもらってください。糖尿病にとって注意すべきはふたつの薬剤です。ひとつは利尿剤です。これにより体内の水分が減ると、ブドウ糖の濃度が濃縮され、血糖値が高くなりやすいので要注意です。ときには、糖尿病性昏睡の原因になることもあります。ふたつめはβ遮断剤です。低血糖などで動悸などの症状を抑えることがあります。低血糖に気がつきにくいことで低血糖の時間が長引き、低血糖昏睡の原因になることがあります。
 
Q 最近、高血圧の薬で合剤を処方されたのですが、大丈夫でしょうか?
A 合剤の中に利尿剤が含まれている合剤が増えています。糖尿病の場合には、完全に心配がないとはいえません。とくに、高血糖で利尿作用が強く出ているときには、使えないはずの薬ですので、主治医とよくご相談してください。
糖尿病と骨減少症
 糖尿病は骨減少症を合併しやすいのですが、閉経後の女性には頻度が多く、注意が必要です。その病態については不明な点も多く、明らかな治療方針が示されていません。
 
 もし喫煙している男性であれば、禁煙をおすすめします。喫煙が骨粗鬆症の原因になるからです。女性であれば、「アクトス」(商品名)を服用している場合には、積極的な骨密度の検査が必要です。骨密度が低下している場合には、「アクトス」の継続を再検討するか、「ビスフォスフォネート製剤」という薬剤を開始するか、「エビスタ」(商品名)を開始するなどを検討します。
糖尿病の膀胱障害
 糖尿病性神経障害により、弛緩性膀胱という現象が起きます。これは、膀胱が弛緩して膀胱の収縮力が低下してしまい、尿が出にくくなるものです。このため尿が膀胱の中にとどまり、それが細菌の発育に好都合で、尿路感染が起こりやすくなります。初期の軽度の尿路感染症は無症状です。
 
 糖尿病で高齢の女性の場合には、尿路感染症は慢性化しやすいのが特徴です。既往症のある方には、できれば糖尿病の診察とあわせて、尿沈渣の検査をおすすめします。尿路感染があれば、適切な抗生物質が必要です。
糖尿病の関節障害
 糖尿病の患者さんでは、手のひらが開きにくくなったり、関節の動きが制限されることがあります。とくに、デュピトレン(Dupuytren)拘縮という手のひらの拘縮は頻発します。気づいたら、かならず主治医に申し出てください。
 
 私の場合、手を専門とする整形外科医師に紹介することにしています。

朝日新聞出版、書籍、糖尿病に克つ 新薬最前線 2010年3月 31ページから54ページまで コピーライト、©鈴木吉彦

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この記事を書いた人

鈴木吉彦医学博士。糖尿病分野で名医ランキング2016〜2023まで、常に掲載。Best Doctor  慶応大学医学部卒。
元、日本医科大学客員教授。現、HDCアトラスクリニック院長。
毎月通院糖尿病患者数1000名以上の糖尿病外来と併行しGLP1ダイエット外来の運用責任者
英文論文は沢山:IP:400以上。70冊以上の書籍の出版経験をもつ。累計100万部以上の書籍を出版。主たるサイト:
ホームページはここをクリック
https://www.glp1.com/
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