糖尿病に克つ 新薬最前線 第4章 従来療法の限界

糖尿病に克つ新薬最前線より第4章をお届けします。

第4章 従来療法の限界
HbA1cは「下げれば下げるほどよい」と考える「段階療法」
 さまざまな薬が開発され発売されるにつれ、糖尿病専門医はこれらの薬を組み合わせるようになりました。まずは内服薬の単剤療法から、次に、内服薬を組み合わせる方法、内服薬とインスリンの併用療法、インスリン注射だけの療法、速効型インスリンと持効型インスリンを組み合わせたインスリン強化療法というぐあいに、「段階的」に治療を「強化」してきました[図4−1]。
「段階」療法と「強化」療法との間に明確な定義はありませんが、早期から徹底的に薬剤として強めの治療を行う場合は、「強化療法」を行っていると考えていいでしょう。
 このように網膜症や腎症の予防ができるという裏付けから、血糖値やHbA1cは薬を使って下げれば下げるほどよいとだれもが考えます。
治療無効期(二次無効性)
が出てきてしまう
 糖尿病熟練医や糖尿病専門医にとっても、薬物治療において悩ましい問題が残っていました。それは薬の「二次無効」という問題です。昔から、二次無効を起こしやすい薬の代表はSU剤といわれてきました。
 SU剤、チアゾリジン、メトフォルミンのどの薬を服薬しても、6カ月まではHbA1cは顕著に下げるのですが、その後は横ばいか、急激にリバウンドします。とくに、SU剤についてはその傾向が強いのです。これは昔から「SU剤の二次無効」と呼ばれた現象です。
 長い年月でみると、糖尿病の治療は、さまざまな薬物を組み合わせても、HbA1cが悪化するのを遅らせて時間をかせいでいるだけで、結局は次第にHbA1cが元のレベルに戻ってしまうことも少なくないのです[図4−2]。

 
Q 二次無効とは、どう理解したらよいのでしょうか?
A 薬を最初に使って、もしそれが効かなかったら一次無効といいます。糖尿病の治療の場合、最初は効くことが多いため一次無効はあまりありません。それに対して、使っているうちに次第に効かなくなってくる場合を、「一次」に対して「二次」と表現します。

二次無効の主たる原因は﹁体重の増加﹂
 これまで発売されていた薬の対照表を[図4−3]に示します。
[図4−3]を注意してみると、メトフォルミンとαグルコシダーゼ阻害剤の2剤以外は、すべて薬の限界という項目に「体重増加」という副作用があることがわかります。SU剤、グリニド剤、インスリン抵抗性改善薬、インスリンなどの薬剤は、いずれも膵臓からインスリン分泌を促すために、そのインスリンが脂肪の分解を抑制して、皮下に中性脂肪を貯めてしまい、体重を増やすのです。
 従来薬では、血糖値を下げると体重が増えてくるという、よくない「おまけ」がついてきていたわけです。体重が増えると、その分、脂肪がつき、インスリンが効きにくくなり、身体が重いので運動不足になる、と、糖尿病にとっては好ましくない現象も、いっしょに起こります。それが、「まわりまわって、最初に効いていた薬の効果を消してしまっている」という考え方もできます。

 
Q アメリカでビグアナイドがよく売れている理由は?
A ビグアナイド剤は、従来の糖尿病治療薬(本書65ページから88ページまでの薬)の中では、唯一、体重が増えない点を評価されていた薬です。アメリカでは大量のビグアナイド剤が使用されていますが、それは糖尿病への効果を期待してということもありますが、それに加えて体重が増えないという点と、薬自体が安いということが理由です。
 日本ではメトフォルミンが使われていますが、最近、新薬の「メトグルコ」(商品名)が発売され、最大処方量が2250mg/日まで増量が可能となりました(詳細は79ページ)。ただし、体重が増えないといわれているメトフォルミンでも、やはり二次無効が起こることがわかっています(104ページ図参照)。
強化療法にも弊害が指摘されるようになった
 HbA1cは下げれば下げるほどよいと糖尿病専門医は決め込んでいましたから、ある薬剤を使って二次無効が出てしまうと、次の薬に追加して処方します。上記で示した何種類もの内服薬を組み合わせて、なんとか二次無効のない処方を探そうと糖尿病専門医は模索します。そして、どうしても血糖コントロールができないと判断すると、インスリン療法をすすめ、血糖値を下げようとするわけです。
 それらの過程で利用される薬において、内服薬でもインスリンでも、低血糖はある程度の頻度で起こってくることが知られています。
 しかしそれがわかっていても、最初から「強化インスリン療法」をはじめ、1日4回の注射をし、HbA1cを7%以下ではなく6・0%以下にしようと試みる臨床試験が増えたのです。
 ところが、そうした趨勢が正しいのかを臨床的に検証する大規模臨床試験が行われ、2008年、アメリカ糖尿病学会で、これまでの先入観を覆す発表がなされました。ACCORD研究(the Action to Control Cardiovascular Risk in Diabetes Study)と呼ばれる研究です。
 従来の、薬をいくつも総動員して組み合わせ、血糖コントロールを正常化しようとする「強化」療法を断行しても、重症の低血糖が増加するのです。そして、最終的に、死亡に至ってしまう重度な事故や死亡率の増加を招いてしまうという結果です。とくに、厳格な血糖管理を行う際、神経障害を有する患者、HbA1cが8・5%を超える患者、アスピリン服用者では慎重を期すべきことを示唆している点も興味深いと考えられています。強化療法群では10kgの体重増加を招いた率も高く、3・5年の間に心臓血管死については差がありませんでした。

ACCORD研究
 ACCORDは、心臓血管イベントのリスクがとくに高い2型糖尿病患者において、強化療法(目標HbA1c、6・0%未満)が通常療法(目標HbA1c、7・0〜7・9%)に比べて心臓血管リスクを低下させるかどうかを検討した試験です。対象患者1万251例の罹病期間が平均10年(平均年齢62歳)と長く、心臓血管疾患の既往患者が35%と多くいました。
 試験開始前のHbA1cが8・1%(中央値)の患者に対し、強化療法群では4カ月後には6・7%にまで低下させています[図4−4]。強化療法群における使用薬剤の内訳は、インスリン77%、チアゾリジン系(主としてロシグリタゾン)92%、SU剤78%、メトフォルミン95%でした。一方、通常療法群の内訳は、インスリン55%、チアゾリジン系(同)58%、SU剤68%、メトフォルミン87%でした。
 そのACCORD試験の全例での解析結果では、一次エンドポイントの「初回非致死的心筋梗塞+初回非致死的脳卒中+心血管死」は、厳格管理群6・9%、標準管理群7・2%、ハザード比(HR)0・90(95%信頼区間0・78〜1・04、P=0・16)と有意差はないものの、厳格管理群で少ない傾向にありました。
 しかし、二次エンドポイントについては、総死亡は厳格管理群5・0%、標準管理群4・0%と厳格管理群で有意に多く(HR 1・22、P=0・04)、心血管疾患による死亡も、厳格管理群2・6%、標準管理群1・8%と厳格管理群で有意に多かったのです(HR 1・35、P=0・02)。
 つまり、厳格に管理した群のほうが、心臓血管による死亡も高いことが示された点において、予測に反した結果が得られ、糖尿病の医療分野においては大きな波紋が起こりました。
従来治療の欠点を補う﹁抜本的発想の新薬﹂
 上記のような従来治療の欠点を補うためには、次のような4つの要因が必要になります。

1 たとえばHbA1cが5・8%以下になる状態が継続しても低血糖は起きないこと。
2 体重が増加しないこと。それによって心臓への負担がかからないこと。
3 (低血糖以外の)副作用も、その頻度が少ないこと。
4 二次無効が起こりにくいこと。

 これらの問題を抜本的に解決するような特効薬が生まれるかどうか、糖尿病治療の世界では最大の関心事でした。そのため、製薬企業も糖尿病専門医も、これらの点に焦点を絞って新薬開発を行ってきたのです。

朝日新聞出版、書籍、糖尿病に克つ 新薬最前線 2010年3月 101ページから111ページまで コピーライト、©鈴木吉彦

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この記事を書いた人

鈴木吉彦医学博士。糖尿病分野で名医ランキング2016〜2023まで、常に掲載。Best Doctor  慶応大学医学部卒。
元、日本医科大学客員教授。現、HDCアトラスクリニック院長。
毎月通院糖尿病患者数1000名以上の糖尿病外来と併行しGLP1ダイエット外来の運用責任者
英文論文は沢山:IP:400以上。70冊以上の書籍の出版経験をもつ。累計100万部以上の書籍を出版。主たるサイト:
ホームページはここをクリック
https://www.glp1.com/
GLP1製剤「サクセンダ」について解説。未承認のGLP1製剤については、その危険性についても解説。現在、世界で最も注目されている糖尿病+肥満(Diabesity)やメタボ+肥満(Metabesity) を専門とする内科医師。
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