糖尿病に克つ 新薬最前線 第9章 GLP-1注射製剤は欧米ですでに発売 日本でも!

糖尿病に克つ 新薬最前線より第9章をお届けします

第9章 GLP−1注射製剤は欧米ですでに発売 日本でも!
 GLP−1関連製剤には、DPP4阻害剤のほかに、GLP−1誘導体(あるいはGLP−1注射製剤)があります。本章以降では、このGLP−1誘導体の解説をします。魅力的な話がたくさん出てきます。そして、ついに2010年春、リラグルチド(商品名=ビクトーザ)が登場することになりました。また、これに続いてエキセナチドは商品名バイエッタとして2010年から発売されています。これにより、日本における糖尿病治療は新時代を迎えるといっても過言ではありません。
「サプライズメディケーション」(Surprise Medication=びっくりするような処方という意味になります)と、ある書籍の表紙に私は自作の造語を公開しました。
 その価値は、治療をはじめた医師と、その効果が顕著にあって恩恵を受けた患者さんにしかわかってもらえないかもしれません。有名なマジシャンに、本当にこんなことってあるのと驚くようなマジックをみせてもらうような、あるいは、初めてジェットコースターに乗ったときのような体験をされる方も少なくはないでしょう。毎月、測定しているHbA1cの曲線は驚くべきカーブを描きながら低下していき、そして、正常範囲付近でソフトランディングするという患者さんも、きっとたくさんいるのではないかと思います。
 ここからは、GLP−1誘導体、注射製剤についてじっくりと解説します。
GLP−1の「ミメティクス」「誘導体」「アナログ製剤」とは?
 GLP−1誘導体は、医学論文を読むとさまざまな名称で呼ばれています。GLP−1ミメティクス、GLP−1受容体作動薬、GLP−1アナログ製剤などなどです。
「GLP−1受容体作動薬」というのは、GLP−1の作用メカニズムそのものを表現した用語です。製薬企業が開発、販売する場合に使うときの用語としては、たしかに正しい使い方ではあります。しかし日常臨床で、一般の方がこの用語を使っても、まず用語が長いし、一般の患者さんたちはなにがなんだかわからないでしょう。これまでも本書で説明したように、膵臓にはGLP−1受容体というリセプターがあり、そのリセプターに直接、働きかける(医学用語では「作動する」といいます)薬という意味です。
なぜGLP1そのものが薬にならないのでしょう?
 なぜGLP−1そのものが薬にならないかというと、純粋なGLP−1を体外から投与しても、体内にあるDPP4によってすぐに分解されて消えてしまうからです。
 ですから、GLP−1のペプチドの構造式に手を加えて、類似化合物を薬として作って、「GLP−1の糖尿病にとって望ましい作用は残す」、しかし、「DPP4ですぐに分解されるという特性は残さない」という物質ができれば、GLP−1の生理的物質としていい部分だけを利用した優れた薬ができると考えるわけです。
GLP1注射製剤もDPP4阻害剤と同じく世界で大ヒット商品に
 このアイディアは、アメリカではすぐに実現され、エキセナチドという薬剤として発売されました。発売元はイーライリリーという会社です。そして、それは爆発的な大ヒット商品になりました。エキセナチドは、厳密にはGLP−1受容体作動薬です。したがって、専門家にはGLP−1誘導体と呼ばれないことがあります。一般の読者には、注射製剤というのが一番わかりやすいので、現段階では、専門用語をどう使うべきかについて、どちらでもよいと私は思います。
 その後、エキセナチド(商品名=バイエッタ)を追撃するように、リラグルチド(商品名=ビクトーザ。ノボ ノルディスク社)やリキセナチド(サノフィ・アベンティス社)、BIM51077(ロシュ/帝人ファーマ)が、エキセナチドより優れたGLP−1受容体作動薬として開発をはじめました。
 GLP−1関連製剤という意味においては、DPP4阻害剤だけで7社以上の世界的な大企業が参入を表明し、GLP−1受容体作動薬だけで5社以上の大企業が参入を表明していますから、GLP−1関連製剤はDPP4阻害剤とGLP−1受容体作動薬をあわせると、世界中で12社以上が参入を表明している巨大な商品になることは疑いがないようです(以下は、「受容体作動薬」という用語がややわかりにくいので、「誘導体」という用語に切り替えます)。
 ちなみに、現在、糖尿病の特効薬であるインスリンを発売している企業は、イーライリリー社、ノボ ノルディスク社、サノフィ・アベンティス社と3社だけです。それと比較すると、いかにGLP−1誘導体のほうが新薬として、魅力的で世界中の製薬企業が注目しているかがわかります。とくにGLP−1誘導体の将来は明るく、日々、新しい治療法が提案されている状況です。
GLP1誘導体﹁製剤﹂はなぜ注射製剤しかないのか?
 GLP−1誘導体「製剤」は、GLP−1に類似した化合物です。それを体外から体内に入れるためには、経口投与の場合と、注射の場合の2種類が考えられます。
 しかし、GLP−1は本書137ページで解説したようにペプチドホルモンで、分子量も大きい物質です。ペプチドホルモンは、経口で服薬すると腸管内で消化され、アミノ酸に分解されて吸収されますから、その時点で薬としての構造は消えてしまいます。ですから、GLP−1誘導体「製剤」を薬として構造を維持しながら体内に入れようとすれば、現時点では注射しか方法がないのです。これが、GLP−1誘導体「製剤」の最大の欠点です。
 なお、エキセナチドを皮下注射した場合の血中半減期は2〜4時間で、1日2回の注射で治療されています。これに対し、リラグルチドは、1日1回の注射でよいことがわかっています。
GLP−1誘導体は糖尿病の治療戦略に「革命」を
 ここではエキセナチドとリラグルチドを例にして、GLP−1誘導体製剤の特徴を説明しましょう。
 リラグルチドの半減期は、1回の投薬では10〜11時間、反復投薬では13時間なので、1日1回の投与が可能とされています。この点は、エキセナチドが半減期の問題から1日2回注射が必要なことと比較すると、リラグルチドのほうが有利です。つまり、リラグルチドのほうが、患者さんにとって注射回数に関してはやさしい治療法であるということができます。
エキセナチド
 エキセナチドはGLP−1の誘導体で、GLP−1受容体を刺激する物質です。トカゲの1種であるアメリカドクトカゲの唾液腺から分離されたペプチドで、39のアミノ酸で構成されています。GLP−1とは約52%のアミノ酸が相同性をもっていますが、まったく別の物質です。 
 エキセナチドの血中半減期は2〜4時間と短いため、1日2回の皮下注射が原則です。
 トカゲの唾液は新薬開発のきっかけとなりましたが、唾液がそのまま薬になるわけはありません。
 もともとこのトカゲの唾液は、動物実験でアミラーゼ分泌の実験として研究されていましたが、糖尿病とはまったく関係のない研究でした。しかし、研究の対象とされていた物質が、その後の研究により、GLP−1受容体の作用物質であることが判明したのです。
 たしかに、最初は唾液の成分の研究だったかもしれません。しかし、薬を探していく過程は、「それとは似て非なるもの」を探しているうちに「物質としてはまったく別の物質がみつかった」という発見だったのです。
リラグルチド
 リラグルチドは、ヒトGLP−1〔7−37〕を構成するアミノ酸残基26位のリジンに、パルミチン酸によって脂質修飾されたグルタミン酸が付加しており、さらには、34位のリジンがアルギニンに置換された構造となっています。
 このような脂質修飾やアミノ酸の置換によりリラグルチドの立体構造が変化した結果、DPP4は、リラグルチド1−2位のヒスチジン−アラニン部分の酵素分解を遂行することが難しくなります。その結果、リラグルチドの活性が保持されることとなります。リラグルチドは、DPP4による不活性化反応に対して防御を施されたGLP−1アナログとして設計されており、血中でのGLP−1様活性を長期間維持します。
GLP1誘導体の効果は?
 GLP−1誘導体は膵臓に作用し、強力にインスリン分泌を促します。健康者と比較して、2型糖尿病では明らかに膵臓からの初期のインスリン分泌は低下しますが、エキセナチドを投与すると、インスリン分泌が顕著に促進されるのです。血中濃度だけからみると、健康者以上になる場合もあるわけです。ですから、GLP−1誘導体が、うまく反応する糖尿病患者さんでは、きわめて血糖コントロールが良好になり、たとえば、健康者のHbA1c平均値を下回ることすら考えられます。
[図9−1]はリラグルチドを注射した場合の結果ですが、同じように、初期のインスリン分泌はリラグルチドのほうが、偽薬よりもはるかに優れたインスリン分泌を示しています。また、120分観察していても、その効果は、差が開くばかりで、リラグルチドは、2時間、インスリンを分泌しつづけていることがわかります。
[図9−1]中の右に示すのは、アルギニン試験というインスリンを最大限分泌させるための負荷試験ですが、この試験を追加すると、この時点では、リラグルチド群でも偽薬群でもアルギニンに対しては良好な反応が残っていることがわかります。

海外で発売されているエキセナチドの成績は?
エキセナチドの場合
 アメリカでGLP−1誘導体が発売されて、すでに3年以上になります。2005年6月のアメリカ発売以来、約100万人に使用されました。世界20カ国以上で発売されており、イーライリリー社のエキセナチド売り上げは2007年で3億70万ドルに上ったということで、大ヒット商品になりました。
リラグルチドの場合
 リラグルチドは、欧州ではビクトーザ(Victoza)という商品名で発売になりました(2009年7月)。日本では、2010年4月から「ビクトーザ」という商品名で発売開始になります。
 リラグルチドについては、じつにさまざまな臨床試験が世界中で行われています。たとえば、欧米ではリラグルチドを使った臨床試験で、HbA1cの低下は約1・7%でした。これはDPP4阻害剤のHbA1cの低下が約0・7%と比較すると、およそ1%も多く、HbA1cを下げる血糖降下剤としては、とても強力な薬であることを意味しています。
 また、『Lancet』という雑誌の内容によれば、リラグルチドは1日1回の注射で効果があり、52週間の経過観察においてHbA1cは、とくにこれまで薬を使っていない患者さんの場合には、最大HbA1cが1・6%低下することがわかっています。HbA1cが8・6%であれば、1年間で7%前後にすることができるということです。
 日本人ではどうでしょうか? 以下には、日本人で行った臨床データをお知らせします。
 日本では、欧米の半分の投与量である0・9mgを1日1回投与する臨床試験が行われました。リラグルチドを単独投与した場合、24週間でHbA1cが8・92%から7・06%まで、じつに2%近く下がり、低血糖はほとんど起こりませんでした。この間、体重は約0・9kg減少しています。
 同じリラグルチドの欧米の成績と比較してみても、日本では投与量が欧米の半分か4分の3であるにもかかわらず、強力なHbA1cの低下作用が示されています。GLP−1はアジア人にとくに効果的であることが示されているといえるかもしれません。
 ただし、比較しているSU剤はグリベンクラミドの2・5mgですから、通常、糖尿病専門医が処方している量の中では比較的、少ない量のほうです。もし糖尿病専門医のもとで、グリベンクラミドの量をより多く使用している場合であれば、このふたつの薬の差は、少しは縮まったかもしれません[図9−2]。
GLP−1誘導体を使うと体重は?
エキセナチドの場合
 2006年に報告されたGLP−1誘導体の成績をみてみましょう。すると、3年間で5kgは減量できたとする報告があります[図9−3]。
 この図表の偽薬の場合には体重の変化は、30週間とも変化なし。エキセナチドは、5μgから10μgに増量するほど体重が減ることがわかります。また、30週目になって、すべてを10μgに切り替えたら、すべて体重が減った成績になりました。80週目には、平均にして約4kgの体重減少を達成しています。
リラグルチドの場合
 リラグルチドの場合、ほかのSU剤と比較して、空腹時血糖値を下げているのが特徴です。さらに、体重も2〜2・5kgも減量できたとのことです。エキセナチドと比較すると、リラグルチドは、体重を減らせる作用としてはやや弱いようです。
 日本人の場合でも、実際に体重減少は、65・22kgだった患者さんが、64・22kgまでしか低下していませんから、1kgの体重減少を認めただけです。日本人のデータなので、もともとのBMIがアメリカ人とは異なり、アメリカ人のほうが肥満者が多いだけに体重の減少も大きいのかもしれませんが、それでもリラグルチドではアメリカ人では2kg、日本人では1kgの体重減少のみということは、4kgの体重減少をみせたエキセナチドと比較した場合において、体重減少作用は、エキセナチドはリラグルチドより強い薬であろうということが推定されます。
副作用の消化器症状は時間とともに軽減する
 副作用は軽度ですが、胃排出速度を遅らせるなどの膵外作用が効いて、胃の動きを止めて、吐き気などが多いというのがGLP−1誘導体の特徴です。
 ただし、この嘔吐などの副作用は、時間とともに減っていくようですし、用量依存性があることが知られています。また、注射量の多いアメリカのほうが、副作用の発現頻度が高いようです。つまり、多い量では副作用も多く出ることがわかっているわけです。したがって、少量ずつ開始して、時間をおきながら増やしていくという方法をとれば、さほどQOL(生活の質)を障害するものではないこともわかってきています。
 リラグルチドについては、日本の臨床試験で胃腸障害のうちもっとも多かったのが便秘、次いで下痢であり(各、5・5%くらい)、嘔吐に至った症例は少数でした。
GLP−1誘導体と他の治療薬との併用効果
 欧米ではさまざまな薬との併用が試験され、結果を出しています。
 リラグルチドは、単独療法だけでなく、さまざまな薬との併用効果を調べ、比較検討しています。その結果、単独治療でもアメリカ糖尿病学会が示した目標値を到達できたのはリラグルチドだけの群で50%を超えています。さらにメトフォルミンと併用した場合には、リラグルチドが1・8mgの場合には、到達率が増加しています。SU剤と併用する場合には、到達率は単独治療と同じくらいですが、もともとSU剤を服用していて、なかなか血糖コントロールができなかった人へ追加した場合ですから、それを考慮すると、非常に優れた臨床成績であることがわかります。
日本で併用が認められたのはSU剤のみ
 日本で2010年春に発売されるときに、承認されている条件は、リラグルチドの単独療法か、あるいは、SU剤を服薬していても十分な効果が得られないときのみ、という条件がついています。
 ほかの薬剤を使用しているときには、リラグルチドは保険適応上は使用できないということになりますから、主治医とよくご相談ください。ただし将来は、こうした適応症の制限は少しずつ解除されていく可能性はあります。
[図9−4]は、日本人におけるリラグルチドをSU剤と併用した場合の比較データです。グリベンクラミド2・5mgでもたしかにHbA1cは下がりますが、7・83%までしか下がりません。
 ところがリラグルチドを併用すると、リラグルチド0・6mgの併用で7・14%まで低下し、0・9mgの併用で6・64%までHbA1cが低下していきます。つまりSU剤だけでは血糖コントロールが難しい患者さんに、リラグルチドを開始すると、さらに0・7〜1・2%も、HbA1cが、下がりうるということを示唆しています。
 これを目標HbA1cに到達できた人の比率で計算してみると、なんと、併用した人の7割がHbA1cが7%以下になっています。アメリカの場合には約6割弱ですから、アメリカ人よりも日本人のほうが、GLP−1注射薬が効きやすい可能性があります[図9−5]。
リラグルチド治療にも血糖応答性はある
 GLP−1関連製剤は、いずれも血糖応答性があることが特徴です。そのため、高血糖であればあるほど薬は効きやすくなります。アメリカでの臨床試験の結果、もともとHbA1cが悪い人ほど鋭い効果を示していました。このことから、メトフォルミンやロシグリタゾン(日本では未発売)などを服薬していても血糖コントロールがうまくできず、半ばあきらめていたような患者さんほど、効果がより多く期待できることがわかります。
GLP1誘導体を利用した場合の低血糖の頻度
 インスリン療法にSU剤を併用すると、通常は低血糖の頻度は増えます。しかし、どちらが主たる低血糖の原因かというと、インスリン(注射製剤)であることが多いのです。これに対して、GLP−1誘導体の場合には、立場が逆転しており、GLP−1誘導体(注射製剤)のほうがSU剤よりは低血糖を起こしにくいのです。
[図9−6]のふたつのグラフを比較すると、左図では明らかにGLP−1誘導体のほうが低血糖の頻度が低いことがわかっていただけるでしょう。
GLP1誘導体は膵臓β細胞の機能を明らかに回復
 ほかの治療をもちいた場合と、リラグルチドを用いた場合を比較すると、明らかにリラグルチドを用いた場合のほうが、膵臓のβ細胞の機能(臨床的には、HOMAインデックスという指標で評価した場合です)は維持されています。DPP4阻害剤では、はっきりしなかった作用でも、GLP−1誘導体は、より強力な作用を示すため膵臓β細胞を改善させることがわかります。
GLP1誘導体は血圧を下げる作用がある
 最高血圧は2・1から3・6mmHg下がったとする報告もあります。ですから、GLP−1関連製剤は、循環器系にも影響を及ぼし、将来は、心臓血管障害などの発症を抑制するのではないかと期待されています。ただし、日本人の臨床試験ではこれほどきれいな成績が得られず、統計的な有意差はつきませんでした[図9−7]。
GLP1に対する抗体の出現率が低い
 リラグルチドとエキセナチドを比較すると、人の本来のGLP−1に近い構造をもっているのはリラグルチドのほうです。それは、アミノ酸の相同性が高いからです。したがって、体内に注入したとき、異物として体が認識して抗体を出してしまう確率はリラグルチドのほうが低いことがわかっています。リラグルチドの場合には約8・6%の出現率ですが、エキセナチドの場合には43%の出現率です。
 抗体が出て、薬の効きが低下してしまう場合もあります。たとえば、インスリン注射を長く注射していてインスリン抗体ができてくると、いくら速効型インスリンを注射しても、すぐに効いてくれないという問題が起こってくる場合があります。
 しかしながら、GLP−1注射薬はまだ新薬なので、リラグルチドやエキセナチドに対する抗体の働きは不明です。GLP−1の場合にはインスリンのような速効性は期待されていません。1日1回か2回注射して、膵臓に対してある程度作用していてくれれば、GLP−1製剤としては有効です。もし抗体がついても、抗体からGLP−1が少しずつ離れ、少しでも活性型GLP−1あるいはGLP−1受容体作動薬として効いてくれさえすればいいのであり、抗体の出現イコール薬の効きがすぐに鈍化するということにはならない可能性があります。
GLP1誘導体とDPP4阻害剤との比較
 いずれもGLP−1関連製剤ですが、その特徴を表にしてわかりやすくまとめてみましょう[図9−8]。

 
Q リラグルチドとSU剤との併用は、大丈夫でしょうか?
A さまざまな試験がありますが、一般的には、SU剤を服用していてもこれ以上HbA1cが下がらないという2型糖尿病患者さんに、GLP−1誘導体を投与した臨床成績が多くあります。何週間、観察するかによって結果は異なりますが、日本での投与量である0・9mgでは、約1・6%低下するとされています。
 ただし、リラグルチドは単独では低血糖を起こしにくいのですが、全体的に血糖値が下がった状態でSU剤の効果が強く作用すると、SU剤によって低血糖を起こしやすくなります。ですから、リラグルチドとSU剤との併用においては、低血糖に対しては十分な注意が必要です。

Q リラグルチドとメトフォルミンとの併用は大丈夫でしょうか?
A この2剤とも胃に対する影響があり、便秘、悪心、嘔吐、頭痛、下痢、消化不良などが認められ、副作用が相乗効果をもたらし、単剤で使うよりも、より強い副作用が出てくる可能性があります。注射をはじめた直後は、かなりの頻度で認められますが、時間とともにその程度は軽減し、頻度も減少していきます。ただし、医薬品添付文書には併用可能の記載がないので、現段階では保険適応の問題があります。もし、どうしても併用を希望される場合には主治医とご相談ください。

Q リラグルチドは、アジア人のほうが、欧米人よりもよい結果が出るのでしょうか?
A 海外での臨床データは多いのですが、HbA1cはアジア人のほうがさらにいい臨床データが出る可能性があります。なぜならば、アジア人のほうが欧米人よりも膵臓のβ細胞が減りやすいため、インスリン分泌が低下しやすいからです。そのため、GLP−1のように、インスリン分泌促進剤に対してはより強い反応が期待されます。

Q もしリラグルチドを誤って大量に注入してしまったら、どうしたらよいでしょうか?
A 注入器の最大の目盛りが最大投与量になっているので、リスクは少ないと思いますが、過量投与時はすぐ主治医に相談してください。胃腸障害が強く現れる可能性があります。

Q 低血糖になったときには、どのような対処が必要ですか?
A インスリン療法との併用か、SU剤を服用している場合には、低血糖が起こることがあります。GLP−1誘導体そのものでは低血糖を起こしにくいので、メトフォルミンやアクトスなどとの併用では、稀にしか低血糖にはなりません。ブドウ糖を携帯して、低血糖だと自覚したらすぐに口に入れるようにしてください。

Q GLP−1誘導体とインスリン療法は併用できますか?
A 理論的にはできます。GLP−1がどんなに高濃度であっても、膵臓から分泌されるインスリン量はその人によってさまざまです。すでに膵臓のβ細胞が少なくなっていて、いくらGLP−1を加えても、あるいはSU剤を加えても、インスリンの絶対量が不足する人はいます。そのような場合には、体外からインスリンを補充して血糖値を下げる必要があります。インスリン療法もGLP−1誘導体療法も注射ですから、それぞれを注射するとなると、最低1日2回の注射が必要となります。
 2011年中は、リラグルチドの日本での保険適応は、インスリンとの併用は用法用量外です。エクセナチドも、やはり保険適応承認されておりません。

Q インスリン療法からGLP−1誘導体注射療法への切り替えは可能ですか?
A 可能な場合と可能ではない場合とがあり、個人差については主治医とよくご相談ください。低血糖が起こりにくいという意味において、インスリン療法で低血糖の経験がある患者さんにとって、GLP−1注射は一度は切り替えてみたい療法です。しかし、GLP−1注射療法はある一定量しか注射できません。インスリン療法のように、用量の微調節ということができません。そのため、確実に切り替えができるかどうかは、医師と緊密な連絡を取り合いながら慎重に行ってください。

Q GLP−1注射の保管には、どんな注意が必要ですか?
A 温度管理が必要です。インスリンも同じですが、真夏の車の中に置きっぱなしのような状態は避けるようにしてください。

Q GLP−1注射液は光で分解されますか?
A インスリン液は光によって分解されますので、暗室保存が大切です。GLP−1の場合にも、インスリンと同様です。やはり、直射日光に当てないでください。

Q GLP−1の血液中の濃度は測定できるのでしょうか?
A 一般の臨床では測定が非常に難しく、主に研究目的で測定されることがある程度です。また、どういうタイミングで測定するかによっても数値が異なってきます。測定そのものは保険診療で行うことはできません。

Q GLP−1注射療法には、リバウンドはないのでしょうか?
A まだ歴史が浅い治療法であるので、いちがいにはいえませんが、ほかの治療と比較すると、体重が減るという特徴があるぶんだけリバウンドはしにくいと考えられます。患者さん自身が、HbA1cが下がったことで安心して暴飲暴食をしてしまえば、それはリバウンドの原因になります。逆に、せっかくいい治療に出会って体重も減ったのですから、それを維持しようと努力している人にとっては、リバウンドする確率は減ります。とくに、GLP−1投薬開始から約8週間くらいたって、食欲低下作用が消えてしまうような患者さんは、その後、リバウンドしやすいようです。。

Q GLP−1注射療法の効果がないという場合もあるのでしょうか?
A あります。ただし、理由がわかる場合だけとはかぎりません。理論的には、膵臓のβ細胞がなくなっているような1型糖尿病では、効果は期待できません。2型糖尿病でも、たとえば血液中のCペプチド値を測定し、0・6以下では効果が期待できないことも多く、とくに膵臓のβ細胞がのこっていない場合は効果が期待できないこともあります。

Q 低血糖が起こるような場合には、どのように治療法を変更するのでしょうか?
A ケースバイケースですが、低血糖を起こす原因となっている薬剤がSU剤であれば、それを減量します。もしインスリンとの併用が可能になれば、その単位数を減らすようにします。

Q GLP−1誘導体の注射は、一生続けなくてはいけないのでしょうか?
A アメリカで発売されて5年しか経過しておらず、一生注射をしている人は世界中でも多くはありません。この治療を何十年にもわたって治療するべきかどうかは、今後の経過をみないとわからないということになります。予測していなかったような副作用が将来起こることがあれば、それを避けるという意味で、違う治療を考えるというのもひとつの方策になるでしょう。

Q リラグルチドを注射する部位やタイミングは?
A 0・9mgを1日1回朝または夕方に、腹部、上腕部、大腿部のいずれかに皮下注射します。1日1回0・3mgから開始し、1週間以上の間隔で0・3mgずつ増量します。ただし、患者さんの状態に応じて適宜増減しますが、日本では1日0・9mgを超えてはいけないことになっています。海外(欧米など)に住んでいれば、1・8mgまで注射してもかまわないという理屈になります。

Q 風邪をひいた場合には、リラグルチドはどうしたらよいのでしょうか?
A ほかの糖尿病薬と併用していない場合は、治療を継続してください。リラグルチドは血糖値が低いときには作用が現れないので、食事を取れないときにさらに血糖を下げて低血糖を招くことはありません。ただし、SU剤を併用している場合には主治医の指示を仰いでください。

Q 嘔吐がひどいような風邪や、急性胃腸炎を起こした場合はどうしたらよいでしょうか?
A 消化器症状が出ている場合は、日本ではまだ臨床的な結論が出ていませんが、程度の問題でもあり、あまり程度がひどいようであれば、一時、GLP−1誘導体の注射は中止し、すぐに主治医にご相談ください。

Q リラグルチドを注射した部位の皮膚に異常は起こりませんか?
A リラグルチドに特有の皮膚障害は報告されていませんが、自己注射の薬なので、ほかの自己注射薬と同じ程度の注射部位反応(皮膚の赤みなど)が起こる可能性はあります。

Q GLP−1のペンは冷凍庫に入れて保存してはいけないのですか?
A いけません。凍結してしまうと薬液の容積が増し、ゴムピストンがカートリッジ端部方向へずれてしまいます。無菌性確保の観点から凍結は避けなければなりません。

Q GLP−1誘導体を、副作用などの理由で自分で中止したらどうなりますか?
A 中止すると、膵臓β細胞はすぐにインスリン分泌を抑制してしまいます。その結果、一般的には、およそ1カ月のうちに、ほぼ元の高血糖状態に戻ってしまいます。GLP−1誘導体をはじめたら、医師の指導がないかぎり中止しないでください。ただし、悪心などの副作用が強い場合は、患者さん自身の判断で中止してかまわないと私は思います。その場合も、翌日くらいには担当医師に連絡をしてください。

Q リラグルチドやエクセナチドの使用は、血糖自己測定に保険が適応されないのですか?
A 自己測定に、保険の適応は認められます。私の外来では、使用開始の前後では頻繁に血糖を測定していただきます。リラグルチドやエクセナチドの単剤使用では低血糖にはなりませんし、食後の血糖値を測定して、血糖値がさがっていれば効果を自覚できます。
 インスリンから、リラグルチドやエクセナチドへ切り替えるときに、高血糖になる場合があります。そのため、インスリンを手元に置いてもらいます。切り替えて、血糖自己測定を1日、食前食後に測定し、もし、血糖値が300mg/dlを超えるようであれば、手元のインスリン(とくに速効型インスリン)を、追加注射してください、と指導しています。
 使用上の適応の中に、リラグルチドはSU剤との併用が認められ、エクセナチドはSU剤との併用のほかに、ピオグリタゾンとメトホルミンとの併用が認められています。いずれにしても、SU剤と併用した場合には、低血糖を起こす確率は高いはずです。
 とくに、SU剤の中でも、アマリールという薬剤を4mgか6mgと多用量用いている場合には、低血糖に対しては、かなり注意するように指導しています。これらの用量調節には個人差があります。たしかに、GLP1注射液とSU剤を併用して、インスリンから切り替えたその翌日に低血糖を起こした患者さんもいます。切り替え直後の数日が不安定な血糖コントロールになりやすく、血糖自己測定を頻繁に行なわなければなりません。
 リラグルチドもエクセナチドも、SU剤を併用しない状態で血糖コントロールがおちついていれば毎日の血糖測定は必要なく、低血糖だと感じたときだけ測定すれば十分です。

朝日新聞出版、書籍、糖尿病に克つ 新薬最前線 2010年3月 163ページから194ページまで コピーライト、©鈴木吉彦

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この記事を書いた人

鈴木吉彦医学博士。糖尿病分野で名医ランキング2016〜2023まで、常に掲載。Best Doctor  慶応大学医学部卒。
元、日本医科大学客員教授。現、HDCアトラスクリニック院長。
毎月通院糖尿病患者数1000名以上の糖尿病外来と併行しGLP1ダイエット外来の運用責任者
英文論文は沢山:IP:400以上。70冊以上の書籍の出版経験をもつ。累計100万部以上の書籍を出版。主たるサイト:
ホームページはここをクリック
https://www.glp1.com/
GLP1製剤「サクセンダ」について解説。未承認のGLP1製剤については、その危険性についても解説。現在、世界で最も注目されている糖尿病+肥満(Diabesity)やメタボ+肥満(Metabesity) を専門とする内科医師。
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