糖尿病に克つ 新薬最前線 第10章 「糖尿病よ、さよなら」か?

糖尿病に克つ 新薬最前線より第10章をお届けします。

第10章 「糖尿病よ、さよなら」か?
1週間に1度注射するGLP−1誘導体が発売間近!
 エキセナチドとリラグルチドとを比較すると、エキセナチドは世界で一番長く多くの患者さんに使用されており、体重が減るという特徴があります。リラグルチドは1日1回の注射という特徴があり、そこがふたつを差別化するポイントです。
 HbA1cを下げる力はリラグルチドのほうがやや強いという印象がありますが、その差は軽微です。実際には、ほぼ同じレベルと考えてよいでしょう。もしダイエットをしたいならエキセナチドを、注射が嫌いであればリラグルチドを、というすすめ方もできるかもしれません。
 しかし、こうした比較論を根本的に打ち消す画期的な新薬製剤が、最近登場してきました。それが「エキセナチドの徐放化剤製剤」です。このエキセナチドの徐放化(効力持続性の向上)、あるいは、アルブミンとより強く結合するヒトGLP−1アナログ製剤など、いずれも週1回の投与で持続的に安定したGLP−1の効果が得られるような薬剤の開発が世界中で進められています。
 なかでもアメリカが最先端を走っており、2009年3月26日、アミリン・ファーマシューティカルズ社、イーライリリー社、アルカミーズ社の発表によると、糖尿病薬バイエッタ(エキセナチド)徐放剤(Byetta LAR)の販売用製造バージョンと臨床試験用製造バージョンの同等性が確認されま
した。
 つまり、すでに発売されている1日1回の注射薬と、週に1回の注射薬とが、効果がほぼ変わらないということです。さらに、週1回製剤のほうが、血中グルカゴン分泌がより強く抑制されるようです[図10−1]。グルカゴン分泌が抑制されるということは、高血糖になりにくいことを意味します。
[図10−1]が示す意味は、世界の糖尿病治療戦略を大きく変えるはずです。1日2回の注射が、1週間に1回の注射と同じようにHbA1cを低下させ、同じように空腹時血糖値を低下させることを示した図だからです。これによって、少なくとも糖尿病患者さんの多くは、「毎日薬を」という束縛から解放され、「週に1回だけ薬を」という生活を送れるかもしれないというライフスタイルに変わる可能性があります。
エキセナチドの徐放化剤製剤ができた背景
 週1回型は、米国アルカミーズ社独自の長時間持続医薬品技術を用いたもので、ポリマーの微小球体の内部に有効成分を封じ込め、注射後に徐々に放出するという方式で、徐放性にしたのです。
 その後、1週間1回投与エキセナチドのHbA1c低下作用は、サノフィ・アベンティス社の持効型インスリン製剤「ランタス」(インスリングラルギン)の毎日投与よりも優れていることが示されたと発表されるなど、さまざまな臨床データの裏付けがとれたあとで、承認申請がFDA(米国食品医薬品局)に受理されました。
「1週間に1回の注射が、毎日1回の注射に勝った」という意味では、画期的な出来事といってよいでしょう。
 そして、申請が問題なく通過すれば、アメリカでの発売はまもなく行われることでしょう。日本では、およそ2〜3年後の発売になるのではないかと予測されています。
 これらの手続きが順調に進み、承認申請が認められればどうなるでしょう? 糖尿病患者さんは週1回の注射投与だけで、ほかの糖尿病治療薬から解放される時代が訪れるかもしれません。
HbA1cの達成度は?
 エキセナチドLAR(週に1回注射製剤)を用いた人の場合では、HbA1cが7%以下になったという症例が86%にまで達しました。これは糖尿病の患者さんの9割は、糖尿病性網膜症やほかの合併症の心配がいらなくなるということを意味します。国際糖尿病連合が推奨するHbA1cが6・5%以下の達成率は約50%です。
 この治療は2009年夏にアメリカで承認申請が出されました。実際に臨床で使用できるようになると、糖尿病患者さんたちの多くは1週間に1回、注射をするときの数分だけ糖尿病のことを思い出すことになります。残りの時間は、糖尿病であることを忘れて過ごせるのです。
 1週間に1度、注射するときだけ糖尿病であることを思い出し、そのほかの時間は、糖尿病であることを忘れて元気に暮らせたら、「糖尿病よ、さよなら」という気持ちになることでしょう。
週1回の注射製剤の不安材料は?
 長期的に刺激を与えるには、安定性と安全性が担保される必要があります。副作用が出た場合は、その1週間の間は副作用も持続するかもしれないといった、利便性とは逆の不安を解消していかなければならないでしょう。そうした副作用が起こらないよう、慎重に研究開発を進める必要があります。
 また、この特効薬はあまりにもすばらしいものだけに、世界中の糖尿病患者さんにとっての福音になるよう、慎重に普及させていく必要があるでしょう。糖尿病の特効薬ができたからもう大丈夫という気のゆるみから、過食や過飲をする人が増えるとしたら、それは逆効果です。
 糖尿病の専門医、熟練医は、「血糖コントロールができる手段が増えたということと、治ったということは別ものであり、普段の生活や意識を、正しく、しっかりしておかないと、思わぬ副作用が起こるかもしれない。人間としての油断が出てくるかもしれない」ということを患者さんによく注意し、指導する必要が出てくるとも考えられます。
GLP1誘導体製剤は従来の薬より勝っているのか?
 およそ490人の患者が参加したDURATION2試験の結果、アミリン・ファーマシューティカルズ社とイーライリリー社が開発中の週1回投与エキセナチドの血糖コントロールや体重低下作用は、メルク社のジャヌビア(シタグリプチン)や武田薬品のアクトス(ピオグリタゾン)よりも優れていたという報告がなされました。つまり、GLP−1誘導体は、SU剤、チアゾリジン系薬剤(ロシグリタゾンなど)や持効型インスリン(たとえばインスリングラルギン、商品名=ランタス)よりも、優れていると評価されている背景には、体重が増えないという点がもっとも強調されるべき特徴としてあると考えられます。
 しかし、これはあくまでイーライリリー社側に立った報道だと注意して受け止めなくてはいけません。1週間に1回の注射がいいか、それとも1日1回の内服薬がいいかは、消費者である糖尿病患者が決めることだからです。
 実際にアメリカで発売されているジャヌビアの売り上げと、エキセナチドの売り上げを比較してみると、多くの患者は、注射よりも内服を選んでいるようです。注射に対するマイナスのイメージは、インスリン注射をしている患者さんたちがよくご存じで、だれ一人自分からやりたいと思っている人はいません。
 そのため、軽症の糖尿病であれば、まずはジャヌビアかグラクティブかエクアを選択するのではないかと考えます。そして、ほかの内服薬との併用を試み、できるだけHbA1cを6・5%以下、もし低血糖を起こさない薬の組み合わせであれば、私はHbA1cを5・8%以下に設定し、指導しています。
 リラグルチドについても、この議論は同様です。つまり、あくまで患者さんのQOLを考えて、低血糖を起こさないという前提で論じているのです。かつ、副作用が最小限に抑えられるという状態のもとであれば、HbA1cの目標値は当然5・8%以下でしょう。ただし、当院では既に5・8%以下の患者さんが多く、目標値を5・5%以下として、健常人とほぼ同じレベルに入るまで努力しましょうと、皆さんを励ましております。
GLP1関連製剤の開発は世界的競争に
「HbA1cが7・0%以下+体重増加なし+重大および重大ではない低血糖のいずれもなし」という特徴をもつ特効薬が生まれるのは、きわめて稀なことです。糖尿病の内服薬の歴史を76ページで示しましたが、それをみても、いかにこのDPP4阻害剤の出現が、糖尿病治療新薬にとってひさしぶりのビッグニュースであるかをわかっていただけると思います。
 GLP−1関連製剤、インクレチン関連製剤、すなわちDPP4阻害剤やGLP−1誘導体を開発している製薬企業が次々と出てきています。そして、今後も驚くべき発想の薬が発売されるかもしれません。月1回、月2回の注射でよい製剤、週1回の内服でよいDPP4阻害剤、鼻から吸入するGLP−1誘導体(鼻腔スプレー)や内服するGLP−1誘導体、注射しなくてもよい坐薬製剤など、さまざまな角度からGLP−1濃度を高める製剤の研究は、これからも継続されることでしょう。
DPP4阻害剤、GLP−1誘導体に関する「Q&A」
Q HbA1cが6・5%以下でも、GLP−1誘導体は注射できますか?
A 日本における治験では、もともとHbA1cが高い人を治験対象者として組み込むという作業をして、1年間でどのくらいHbA1cが低下するのかを観察した調査ばかりです。その結果、HbA1cは、8・3%から6・45%にまで低下しています。
 血糖コントロール不良の患者さんであっても6・5%を下回るのですから、もし、もともとHbA1cが6%から7%前後の患者さんたちが、この治療をとりいれたら、HbA1cの目標値である5・8%以下になることは、さほど困難ではないかもしれません。
 問題は、医師たちが、HbA1cが7%以下であればGLP−1誘導体は必要ではないと考えてしまうことだろうと私は思います。しかし、その判断は、患者さんの年齢、人生計画、健康に対する警戒心、経済力など、さまざまな要因を総合的に考慮して開始しなくてはいけません。

Q 2型糖尿病になったら、すぐにGLP−1誘導体をはじめたほうがよいのでしょうか?
A 歴史が浅いので慎重な分析が必要です。しかし、膵臓β細胞を増殖させたり、その自然死を抑制するという意味では、膵臓β細胞がたくさん残っている時期にGLP−1治療を受けるほうが有利で、効率もよく、効果も期待できるでしょう。となると、2型糖尿病と診断されてから、できるだけ早い段階のほうが望ましいといえます。

Q GLP−1誘導体は最初から注射をするのですか?
A まず最初は、DPP4阻害剤の内服薬からの開始で問題ないと考えます。ほかに、GLP−1を増やすのはメトフォルミンやαグルコシダーゼ阻害剤などもあり、それらを活用しGLP−1の作用をとくに引き出しておきます。もしDPP4阻害剤、メトフォルミン、αグルコシダーゼ阻害剤の3つでも効果がない場合には、GLP−1誘導体をはじめるのが望ましいと考えます。ちなみに、この4つの組み合わせをどのように行っても、さほど重篤な低血糖は起こしません。そのため、2型糖尿病と診断された初期段階からの開始が望まれます。

Q 胃もたれがしているのですが、DPP4阻害剤やGLP−1誘導体は使えるのでしょうか?
A たしかに、GLP−1関連製剤は、悪心、気分不快、吐き気が強くでやすい薬です。とくにGLP−1誘導体を注射したばかりの数週間は、それを自覚しやすいので注意が必要です。日本人であれば、あまり胃もたれのするような食事は避けたほうがいいかもしれません。お酒を飲み過ぎの人で胃もたれをしているのであれば、お酒はひかえてください。そうでない場合には、私の外来では、薬剤で胃酸の分泌をおさえたり、胃粘膜を保護したり、胃もたれを抑制するように、と工夫しております。

Q DPP4阻害剤やGLP−1誘導体と組み合わせがいい薬剤は?
A 日本では市販後調査として、ある薬が承認されると、組み合わされる可能性がある薬剤との安全性を担保するための治験が必要です。DPP4阻害剤、GLP−1誘導体は、現在までのところ、どの薬剤と組み合わせても有効な結果がでています。ただし製薬企業が異なると製剤(化合物)も異なり、その製剤の特徴によって副作用が異なる場合もあります。その場合には、主治医によく説明を聞いてから開始してください。

Q GLP−1誘導体が急性膵炎を起こすのは本当ですか?
A DPP4阻害剤もGLP−1誘導体も、作用臓器は膵臓ですから、少なからず膵臓には負担をかけます。しかし、それはあくまで想像にすぎません。最近、欧州糖尿病学会で報告された調査データでは、GLP−1誘導体が膵炎を誘発する機序は不明であり、かつ2型糖尿病自体が一般に急性膵炎になるリスクは3倍も高いのです。
 調査は2004年9月1日から2007年12月31日の間に行われ、㈰エキセナチドの投与を開始した患者(エキセナチド群)、および、㈪エキセナチド以外の糖尿病治療薬の投与を開始した患者(他糖尿病薬群)の2群について、保険請求のクレームをベースに急性膵炎の発症を調べ、両者を比較しました。その結果、最終的に比較の対象となったのは、エキセナチド群が2万5718人、エキセナチド以外の糖尿病治療薬を開始した患者は23万4536人で、急性膵炎の発症数は、エキセナチド群が273件/10万人・年、他糖尿病薬群では228件/10万人・年でした。他糖尿病薬と比較したエキセナチドの急性膵炎発症の相対リスクは1・1(95%信頼区間0・8〜1・5)となり、両群の差は確認されませんでした。ほかにもサブ解析が行われましたが、GLP−1誘導体であるエキセナチドと急性膵炎の関連は確認されなかったというのが結論です。
 ただし、日本でのデータはまだ不足しています。念のため私の場合には、膵炎の既往のある人、胆石がある人、大量の飲酒をしている人、中性脂肪が極端に高い人などについては、注意しながら開始することにしています。私のクリニックでは腹部エコー検査ができますので、できるだけ一度、腹部エコー検査あるいは腹部X線検査を受けていただき、胆石、アルコール性脂肪肝、膵臓の異常(膵内の石灰石など)を確認してからDPP4阻害剤やGLP−1誘導体を開始するのが私の方針です。

Q DPP4阻害剤を服薬していますが、急性膵炎にはならないでしょうか?
A FDA(米国食品医薬品局)は、ジャヌビアと、ジャヌビアとメトフォルミンとの合剤であるジャヌメットについて、急性膵炎の報告症例を処方情報に明記する旨の改訂を行いました。FDAによると、2006年10月から2009年2月までのジャヌビアの市販後調査結果では、88例の急性膵炎がみられ、うち2例は出血性または壊死性膵炎だったとのことです。FDAは医療従事者に対して、治療開始後または投与量増加後の患者では、膵炎の発症を慎重に観察するようにと推奨しています。
 これに対し、発売元の米国メルク社から、ジャヌビアと膵炎との発生率増加には関連性がないとの異論も出されています。GLP−1誘導体でもDPP4阻害剤でも、GLP−1を増加させるという意味においては同じ薬剤ですので、やはり上記で示したように、膵炎を起こしたことがある患者や、起こす可能性が高い患者に対しては、慎重に継続投与をしなくてはいけないでしょう。その意味でも、筆者のクリニックでは月1回の外来受診と採血をすすめています。

Q リラグルチドは、甲状腺がんを起こす可能性があると聞いたのですが?
A 2009年春のFDA諮問委員会では、甲状腺がんとの関連を示唆する齧歯類の成績において、齧歯類にみられたC細胞(甲状腺に存在)由来の腫瘍はヒトには関連がないとするにはデータ不足だとしました(13人中12人がこの意見)。しかしながら、現データでリラグルチドを承認してもよいかどうかという質問は、可否同数に分かれ(賛成6人、反対6人、棄権1人)、甲状腺乳頭がんのリスクについては満場一致で許容できるとし、この点についてリラグルチドの承認を支持しました。こうした経緯を受け、FDAではリラグルチドの審査期間を延長して検討を続けてきましたが、2010年1月、リラグルチドをアメリカ国内で使用することをFDAが正式に承認しました。
 ただし、これらの議論は臨床試験での限られた症例数に基づくものです。本当に甲状腺腫瘍に関する懸念がないかは、発売後に情報収集を続けて確認していく必要があるでしょう。日本でもリラグルチドが発売されたら、できれば全例について、甲状腺機能や形態に対する定期的な検査が望まれます。

Q 外来では、どんな検査をすれば甲状腺がんはみつけられますか?
A 私のクリニックでは、週に1回、甲状腺専門医が外来を担当していますので、少しでも甲状腺がんの既往がある方には、まず受診していただきます。また、甲状腺がんの既往がない方でも(一般の糖尿病患者さんのほとんどですが)、頸動脈エコー検査のときにいっしょに甲状腺エコー検査を行うか、あるいは、GLP−1誘導体を使いはじめたら定期的に甲状腺エコー検査を行うことを予定しています。また、少しでも異常があれば、すぐさま甲状腺専門医のいる甲状腺専門外来を受診していただくことにしています。

Q GLP−1誘導体やDPP4阻害剤に二次無効現象はないのですか?
A あります。どんな特効薬でも、患者さんが特効薬を受けることによって安堵し、精神的な解放感から食欲が出てしまいます。それによって、それまでの食生活をいいかげんにしてしまった結果、再び血糖値が上昇してくるようであれば、それは「二次無効」の一因と表現できる現象です。ただし、GLP−1誘導体は悪心という副作用を伴うため、食欲を出しにくい、よって二次無効はほかの糖尿病治療薬よりは起こりにくいと考えられています。

Q GLP−1誘導体は、肥満者に対して糖尿病発症予防に使えませんか?
A 海外では有効という臨床データが出ています。非糖尿病者を対象として、抗肥満薬のオルリスタットとリラグルチド高用量(3mg)を比較したデータも紹介されました。その結果、GLP−1誘導体であるリラグルチドのほうが優秀な成績でした。肥満者の体重は投与から20週間で9kg近くも減少した患者さんもいたのです。ですから理論的には、GLP−1誘導体は、「やせ薬」としてもいい薬ですし、糖尿病発症予防にもなります。医師の承諾さえあれば、抗肥満薬として使えます(保険適応にはなりません)。日本で、もし需要があれば美容目的で利用できる可能性があります。なお、肥満の解消は中性脂肪値などの低下にもつながります。

Q DPP4阻害剤でもGLP−1誘導体でも副作用が起こったときに確認できるサイト(ホームページ)は?
A 医療用医薬品の添付文書情報を掲載しているホームページをチェックしてください。http://www.info.pmda.go.jp/psearch/html/menu_tenpu_base.html
 みつかりにくければ、
http://www.info.pmda.go.jp/
 から、検索エンジンのサイトへ到達することができます。そこでは、各医薬品の副作用報告を調べることができます。ですから、DPP4阻害剤でもGLP−1誘導体でも、その薬にどのくらいの副作用があり、禁忌事項があり、作用法や薬物の特性についても、医師がチェックする水準で調べることができます。

Q GLP−1誘導体で活性型GLP−1濃度を高めておいて、DPP4阻害剤を使えば、それだけ活性型GLP−1を血液中に高濃度にしておくことはできないのでしょうか?
A DPP4阻害剤は活性型GLP−1が不活性型になるDPP4分解酵素反応部位を抑制するように作成されています。GLP−1誘導体もその意味では同じで、DPP4分解酵素の反応部位を抑制し、かつ、その抑制作用が長時間、継続するようにと設計され作成されています。ですから、活性型GLP−1からみれば、DPP4阻害剤もGLP−1誘導体も、酵素の同じ場所に作動する薬なのです。両者をあわせて内服と注射をしても、相乗効果は期待できません。

Q GLP−1誘導体を使うか、DPP4阻害剤を使うかの判断基準は?
A いろいろな要素をかんがみながら糖尿病専門医が判断するでしょう。注射を好まない人は、DPP4阻害剤がまず優先されるでしょう。HbA1cが、もともと7%から6・5%前後であれば、DPP4阻害剤を開始して様子をみて、HbA1cが5・8%以下になるかどうかを観察します。逆に、HbA1cが8%から9%前後であれば、DPP4阻害剤を優先するかは、緊密に連絡がとりあえる医師・患者関係であれば大丈夫でしょうが、そうでなければ危険です。そうした高血糖の患者さんに対してはDPP4阻害剤を漫然と処方していてはいけません。患者さんに注射に対する抵抗がもしなければ、GLP−1誘導体に切り替えるべきでしょう。ただし、これは個人差がある判断になります。あくまで外来で患者さんの状態を診察しながら、決断する医師の判断を、患者さんがどう受け止めるかにかかってきます。

Q DPP4阻害剤を使った場合と、GLP−1注射薬を使った場合の、血液中の濃度の違いは、どのくらいあるのですか?
A [図10−2]をみていただくと、活性型GLP−1の濃度としては、リラグルチドを1日1回注射した場合と、DPP4阻害剤(ビルダグリプチン)を服薬した場合とのGLP−1濃度の違いがわかります。リラグルチドがおよそ4倍の濃度になるようです。DPP4阻害剤が本来の血中濃度の2〜3倍くらいですから、GLP−1注射製剤は、その4倍、つまり、このデータだけから判断するとすると、本来の血中濃度の8〜12倍くらいになるという計算になるようです。ただし、これはリラグルチドの場合で、エキセナチドは、薬としてのコンセプトが違うので、同じような計算はできません。

Q GLP−1関連製剤は1型糖尿病には応用できないのでしょうか?
A 日本では、まだあまり行われていませんが、アメリカでは膵島の細胞移植にGLP−1を応用することで、移植がより成功しやすくなるという実験が行われています。もし、そういう実験でデータに改善の傾向が認められたとしたら、1型糖尿病においてもGLP−1は有効かもしれません。
 たしかに1型糖尿病は膵臓のβ細胞がなくなっていますから、理論的にはDPP4阻害剤やGLP−1誘導体は効果がないはずです。しかし、1型糖尿病には、発症してからハネムーンピリオドと呼ばれるように、一時期、膵臓のβ細胞の減少が落ち着いて、血糖値が改善する時期があります。その理由は解明されていません。ですが、たしかに1型糖尿病といっても、急激に膵臓β細胞がなくなる病気ばかりではありません。何年もかけてβ細胞が減少していく、緩徐進行型1型糖尿病という症状もあります。
 もし、そこにDPP4阻害剤やGLP−1誘導体を投薬することによって、β細胞の減少する速度が遅くなれば、それだけで血糖コントロールはよくなり、患者さんの希望も生まれてくる可能性はあります。本書125ページで解説したGLP−1がもつβ細胞のアポトーシスの抑制効果が、1型糖尿病に対して希望をもつことになり、GLP−1の生活の質(QOL)を上げるかもしれません。
 ただし、現在はDPP4阻害剤やGLP−1誘導体は2型糖尿病に対してだけしか保険が通りません。1型糖尿病にこの薬剤を投与するためには、医師主導の治験(臨床試験)という形になるのか、あるいは、単なる自由診療という形になるのかは、これからの検討課題になるでしょう。

朝日新聞出版、書籍、糖尿病に克つ 新薬最前線 2010年3月 195ページから215ページまで コピーライト、©鈴木吉彦

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この記事を書いた人

鈴木吉彦医学博士。糖尿病分野で名医ランキング2016〜2023まで、常に掲載。Best Doctor  慶応大学医学部卒。
元、日本医科大学客員教授。現、HDCアトラスクリニック院長。
毎月通院糖尿病患者数1000名以上の糖尿病外来と併行しGLP1ダイエット外来の運用責任者
英文論文は沢山:IP:400以上。70冊以上の書籍の出版経験をもつ。累計100万部以上の書籍を出版。主たるサイト:
ホームページはここをクリック
https://www.glp1.com/
GLP1製剤「サクセンダ」について解説。未承認のGLP1製剤については、その危険性についても解説。現在、世界で最も注目されている糖尿病+肥満(Diabesity)やメタボ+肥満(Metabesity) を専門とする内科医師。
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