糖尿病に克つ 新薬最前線 第11章 GLP-1を超えるかもしれない新薬が待機

糖尿病に克つ 新薬最前線より第11章をお届けします

第11章 GLP−1を超えるかもしれない新薬が待機
SGLT2阻害剤
 SGLT2(sodium-dependent glucose transporter2)は、腎臓ネフロンの近位尿細管細胞の管腔側膜に分布するナトリウム・グルコース共輸送担体です(近位とは、近いという意味です)。この輸送担体という機能は、原尿(腎臓で濾過されてきた尿)からのブドウ糖とナトリウムとの再吸収を行っています。
 最近開発されて、すでに治験段階に入っているSGLT2阻害剤という新薬は、この輸送担体を特異的に阻害してしまう作用をもつ薬です。これを服用すると、近位尿細管でのブドウ糖が再吸収されなくなります。すなわち、ブドウ糖が尿とともに体外に排出されやすくなってしまうわけです。
 糖尿病になると、尿糖が出るのは当然のことですが、糖尿病でない人は尿糖が出ないというのも、よくよく考えると不思議なことです。実際、血液中には100mg/dlのブドウ糖濃度があるわけですから、それが濾過されて出てくれば、本来であれば糖尿病でない人でも尿にブドウ糖が出てきてもいいはずです。
 しかし、ブドウ糖は、体にとっては大切なエネルギー源です。健康者であれば、それをみすみす尿の中に捨ててしまうのは、あまりにももったいない話です。そうさせないために、本来、人間は、腎臓の原尿が作られる糸球体と呼ばれる場所のすぐそばで、尿細管という尿が通過する管の表面の膜を利用して、ブドウ糖を「再吸収」しています。
 ところが糖尿病になると、血液中にあるブドウ糖は余計な物質に変わります。体にとっては不要な物質なのです。ですから、糖尿病患者さんにとって、腎臓のレベルで「再吸収」が行われるということは、本質的に望ましいことではなかったとも考えられます。
 SGLT2阻害剤は、糖尿病患者さんにとって望ましくない「再吸収」という作業をブロックします。腎臓で排出されたブドウ糖を、尿といっしょにどんどん体外に排出させて、尿糖として流しだしてしまうのです。その結果、体中、とくに血液中にたまったブドウ糖は尿糖となって排出され、血糖値は下がっていきます。
 糖尿病の患者さんが、「糖尿」のメカニズムをうまく利用して、糖尿病であることを改善させてしまうのです。
[図11−1]をみてください。消化管でブドウ糖がSGLT1を介して血液中に運ばれ、血液中を流れます。その血液は腎臓の糸球体で濾過されます。そのときに、ブドウ糖は尿糖として排泄されるはずです。しかし、近位尿細管という場所に、SGLT2という輸送担体があるので、ブドウ糖を再吸収し、尿中に排泄されないようにしているのです。SGLT2阻害剤というのは、このときの再吸収を阻害することで尿中に排泄させるブドウ糖を増やし、それによって血糖値をさげるというメカニズムをもちます。
 すでに公開されたSGLT2阻害剤の臨床成績のひとつでは、1週間後、2週間後、さらには4週間後には、かなり多くの糖尿病患者さんの空腹時血糖値が下がっていました。
 本書20ページでも解説しましたが、2型糖尿病の場合、食後高血糖が主たる特徴なので、食後高血糖を改善できても、短期間に空腹時血糖値が改善するのはなかなか時間がかかるものです。インスリンもSU剤も、ほかの内服薬も、さらにはDPP4阻害剤でさえも、空腹時血糖値を数週間で下げるというのは難しいはずです。
 ところがこのSGLT2阻害剤は、またたくまに空腹時血糖値を下げています。おそらくHbA1cに換算したら、インスリン導入に匹敵するのではないかと推測されるほど、強力な血糖降下作用をもつ新薬になると期待されます。
 また、SGLT2阻害剤にも血糖応答性という特徴がそなわっています。DPP4阻害剤やGLP−1誘導体と同じように、高血糖のときには尿糖がたくさん出ますが、正常血糖になれば尿糖は出なくなりますから、血糖応答性という特徴ももっているわけです。そのため、尿糖がどんどん出てやせこけてしまうという心配もなくなり、体重にしておよそ3〜4kgやせたところで、正常血糖値になり、その後は高血糖にはならないという状態を作ることができるかもしれません。また、尿糖が出ていくぶんエネルギーは排出されますから、自然にダイエットができ、体重が減っていきます。つまり、「やせる」という顕著な効果も期待できるのです。
 DPP4阻害剤が発売され、次にGLP−1誘導体が発売されて、さらにそれを上回る期待を背負って世界中の製薬企業が開発競争しているのが、このSGLT2阻害剤です。たとえば、英グラクソ・スミスクライン(GSK)などがSGLT2阻害剤として、大正製薬がSGLT阻害剤として、米ジョンソン・エンド・ジョンソンがSGLT2阻害剤として、日本のキッセイがSGLT2阻害剤として開発を行っていると報じられています(『薬事日報』より)。
 数年後には、読者の皆さんが臨床の現場で体験される新たなサプライズメディケーションになるのではないかと私は期待しています。
抗肥満薬(膵リパーゼ阻害剤)
 2008年12月22日、武田薬品は、肥満治療や糖尿病治療に新しい一歩を踏み出す新薬の開発をホームページで公開しました。名称は、一般名=セチリスタットです。その主たる内容を、武田薬品のHPから引用します。
 まず、この新薬は、英国のバイオベンチャー企業アリゼミが創製した化合物です。脂肪の分解酵素である膵リパーゼの働きを阻害し、食事からの脂肪の吸収を抑えることで体重を減少させる作用機序を有しており、肥満症および関連する糖尿病や脂質異常症への治療効果が期待されます。
 武田薬品では、日本における臨床第2相試験の結果を踏まえ、日本人の肥満症患者を対象に、臨床第3相二重盲検比較試験を開始するとのことです。 
 しかし一方で、開発を中断している製薬企業もあります。リパーゼ阻害剤では、ロシュが欧米で販売している肥満治療薬「ゼニカル」(一般名=オルリスタット)が有名です。欧米では服薬人口も多く、とくに若い女性が、やせる目的で夏になる前に服薬する傾向があると聞いています。
 日本では中外製薬がその開発権利をもっていますが、現在のところ、開発は中断されたままのようです。ただし、こうした情報は基本的に企業秘密で公開はされていないので、私が知らないだけかもしれません。
 このように未知数ではありますが、抗肥満薬という市場を追求している製薬企業は、ほかにもたくさんあります。これまで抗肥満薬の代表だった塩酸シブトラミンは、2010年に世界中で発売中止になりました。今後は、膵リパーゼ阻害剤の日本での発売がより注目されています。
通院糖尿病・特別ドック
次にすることは心筋梗塞予防とがんの早期発見
 私のクリニックでは、半数以上の人が非常に良好な血糖コントロールになっています。私が各地で講演をすると、「血糖をコントロールできるようになったら、次は何をするのですか?」とよく質問されます。
 日本人の死因では、がんが1位、心筋梗塞が2位ということを考えると、DPP4阻害剤やGLP−1誘導体によって(そして将来はSGLT2阻害剤などで)、血糖コントロールが顕著に改善してしまえれば、次に行うことはがんの予防・早期発見と心筋梗塞の予防
でしょう。
心筋梗塞の予防は?
 高血圧や高脂血症(脂質異常症)は、特効薬の出現で、意外と楽にコントロールできるようになっています。さらに、食事療法(高血圧であれば塩分制限、高脂血症であれば、アルコール制限、コレステロール過剰製品を減らす、油を減らすなど)を追加すれば、多くの患者が目標値まで到達できるようになりました。
 なかでも、HMG−CoA還元酵素阻害薬(スタチン)や、アンギオテンシン=受容体拮抗薬(ARB)は、糖尿病患者の半数以上に投薬されているといってよいほどです。それだけ糖尿病には高血圧や高脂血症を合併しやすく、かつ、これらの薬は特効薬だからです。そして、さらに禁煙という指導も増えてきました。
 心筋梗塞になる確率は、コレステロール、糖尿病、血圧、喫煙、心肥大というように高くなってきています。したがって、これらをしっかりコントロールしさえすれば、日本人の死因の第2位である心筋梗塞にはならないですむということです。その意味では、DPP4阻害剤やGLP−1誘導体は、糖尿病の治療における特効薬であるだけに、HMG−CoA還元酵素阻害薬(スタチン)や、アンギオテンシン=受容体拮抗薬(ARB)と並んで処方されて、生活習慣病の3点セット、あるいは、心筋梗塞予防の3点セットと呼ばれるかもしれません。
がんの早期発見には人間ドックを!
 糖尿病専門外来を行っていると、がんになる糖尿病患者さんが多いのには驚きます。高血圧と高脂血症と高血糖をいくらコントロールしていても、がんの検査は行っていない場合、患者さんからは、せっかく通院しているのにと恨まれてしまいます。
 しかし、糖尿病や肥満者はがんになる確率が高いのです。それは、複数の臨床研究から報告されています。膵がんは約1・8倍、結腸直腸がんは約1・3倍、膀胱がんは約1・2倍、乳がんは約1・2倍に上昇するとされています。ほかにも、胃がん、胆がん、肝臓がんなども、糖尿病でない人と比較して多いことが知られています。
 そこで私は、長年にわたって、糖尿病患者さんにでも、健康な方たちと同じく、人間ドックをおすすめしてきました。その結果、具体的には、乳がん、肺がん、大腸がん、前立腺がん、膵がん、胃がん、腎がんなど、本当にさまざまな早期がんを、糖尿病外来に通院中の患者さんからみつけました。
 しかし、患者さんたちは高齢化し、年金生活になると、医療費を抑えたいと考えるのは当然です。そこで、糖尿病外来にあわせた新しい人間ドックを考案しました。
糖尿病通院患者さんに効率のよいドックを提案
 私のクリニックでは、ほぼ毎月、採血をし、年に1回か2回は糖尿病に関連した合併症の検査をかならず行っています。糖尿病は全身病なので、さまざまな臓器を調べることが保険でカバーされており、多くの検査ができます。しかし、それでも、がんの早期発見につながる検査をすべての糖尿病患者さんに対して行えるわけではありません。
 糖尿病通院患者さんだけに用意した新発想の人間ドックの特徴を、以下に整理します。
1 毎月の採血項目や、年に1回定期的に検査している項目は削除する
 糖尿病に関係した採血項目をチェックしているわけですから、たとえば、ある月と次の月の間にドックを受けるにしても、それらの採血項目をチェックするのは、2重チェックになり、もったいないので、糖尿病通院患者ドックでは、あえてその項目を削除します。
2 がんの早期発見につながる検査を優先
 胃がん、大腸がん、膀胱がん、肺がんなどの検査には、胃透視検査、便潜血検査、尿検査、膀胱エコー検査、尿細胞診、胸部レントゲン検査(2方向)などが必要です。腫瘍マーカーや便潜血、鉄欠乏性貧血検査項目なども追加し、肝臓がん、大腸がん、膵臓がん、前立腺がんなどを調べます。
3 糖尿病に関連したほかの疾患の有無を検査
 たとえば、高齢になると甲状腺機能低下症をもつ患者さんが増えてきますが、糖尿病の病名だけで保険では検査できません。しかし、GLP−1関連製剤を使っていると必要になる場合があるので、甲状腺機能検査(TSH)や甲状腺自己抗体などの検査を含みます。
4 骨の変化の診察も必要
 アクトスを服用していると、骨密度が低下することも知られているので、骨密度を調べます。また、腹部レントゲンを横向きで撮影すると、腹部大動脈の石灰化を認めるので、大血管障害の初期徴候として検査します。
5 糖尿病であれば
 一般採血(生活習慣病に関連した項目は保険でカバーされます)、眼底検査、腎臓検査(尿蛋白検査)、神経障害に関する検査(神経伝導速度検査など)が受けられるので、これらはドックメニューからあえて外し、費用を節約します。
 
 糖尿病通院患者ドックは、通常の人間ドックと比較すると、糖尿病でカバーされる項目を減らすぶんだけ安価に設定できます。そのため、普段に通院している糖尿病患者さんでも、簡便に、気軽に、人間ドックを受けていただくことができます。
 当院に通院中の糖尿病患者さんたちから、このシステムは高く評価されています。これからは、この特別ドック(半日ドック)を目的に来院される新患受診者が増えるかもしれません。

朝日新聞出版、書籍、糖尿病に克つ 新薬最前線 2010年3月 217ページから229ページまで コピーライト、©鈴木吉彦

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この記事を書いた人

鈴木吉彦医学博士。糖尿病分野で名医ランキング2016〜2023まで、常に掲載。Best Doctor  慶応大学医学部卒。
元、日本医科大学客員教授。現、HDCアトラスクリニック院長。
毎月通院糖尿病患者数1000名以上の糖尿病外来と併行しGLP1ダイエット外来の運用責任者
英文論文は沢山:IP:400以上。70冊以上の書籍の出版経験をもつ。累計100万部以上の書籍を出版。主たるサイト:
ホームページはここをクリック
https://www.glp1.com/
GLP1製剤「サクセンダ」について解説。未承認のGLP1製剤については、その危険性についても解説。現在、世界で最も注目されている糖尿病+肥満(Diabesity)やメタボ+肥満(Metabesity) を専門とする内科医師。
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